「ずいぶんにぎやかだな。」
そこでさらに茂助の肝を冷やす声が…
「景…虎さ…ん」
今一番会いたくなかった相手の一人が戸口に立っている。
「あ…景虎様」
「きゃあぁ~っ!本物の景虎様だ~!!」
と、あかりと花がほぼ同時に口を開く。
「本物?」
不思議そうに眉を少ししかめる景虎。
「は~な~!本当にやめて(泣」
茂助はあわてて花の口を塞いだ。
「モググ…」
ワタワタとそれを外そうとする花。
「つるぎ様の…身の回りのお世話をするためにいらした花さんです」
あかりが説明する。
「今まで周りに同じ年頃の女の方がいらした事がなかったので、お友達になって頂けたら…と思って、お茶にお誘いしましたの」
両手を胸元で揃えて言うあかりに目を向けると、景虎は
「そうか」
と表情を柔らかくする。それから花に視線を移した。
「あかりには慣れない環境で心細い思いをさせている。
心を許せる者がいれば心強いだろうと思う。
これからも仲良くしてやってくれ。よろしく頼む」
あかりの肩に軽く手をおいて言う。
(うあぁぁ…かっこよすぎ!!ちょ~カッコイイよぉ~!!お似合いだよ~~!!!)
悶え死にしそうな勢いの花。
「か…っこ…いい…」
すぐ側の茂助だけがようやく聞き取れるような声でつぶやいて、その後言葉をなくす。
「ところで…景虎様、何かお忘れ物でも?」
ふと気づいてあかりが景虎を見上げると、
「ああ、そうだった」
と、景虎はあかりに目を落とす。
「京を離れるにあたって何か欲しい物などがあればと…王路でも取り寄せる事はできるが時間もかかる。
商人を呼びつけても良いが、どうせなら店まで出向くか?
行きたいなら連れて行くが?」
さきほどつるぎに武具の目録を渡して、ふと思いついたのだ。
以前あかりに誘われて京見物に行った時、見る物見る物初めてだったせいもあって、あかりは随分楽しそうにしていた。
もう京の街を見て歩く機会も取れなくなる事だし、もう一度連れて行ってやりたい。
「まあ、街に?」
あかりの顔にぱ~っと桜の花が咲いたような笑顔が浮かぶ。
「あ…でも…お忙しいのでは?」
すぐにあかりの顔から笑みが消え、気遣わしげな表情になる。
「いや、そのくらいの時間は取れなくもない。気にするな。
それに…なによりオレがそうしてやりたいのだ。
あかりが京を離れて王路までついて来てくれるというのだからな」
景虎の言葉に赤くなってうつむくあかり。
「…はい。行きとうございます…」
そのまま蚊のなくような小さな声で答えた。
「と、いうことだ。あかりは連れて行く。悪いな、また後ほど」
あかりの返答を待って、景虎は茂助と花を振り返った。
「あ、はい。いってらっしゃい。お気をつけて」
あわてて言う茂助と、ぴょん!と頭を下げる花。
二人をその場に残して、景虎があかりを連れてその場を離れた。
「ら…ラブラブだよね?!!」
二人の姿が消えた瞬間、花が復活した。
「萌えすぎてもう死にそう!!…ていうか…このお屋敷美形の宝庫?!!」
握るこぶしに力が入ってプルプル震えている。
「か…紙と筆買いに行かないと!京娘瓦版組合、乙女通信編集者の血が騒ぐ!!」
(な…なんなんだ?!それはっ!!いや、どちらにしても…)
「や~め~てぇぇ~!!オレが殺されるから!花~~!!!」
すがる茂助。
確かに…絵に描いたようなお似合いの美男美姫ではあるんだけど…と茂助も思う。
いつも厳しく冷静な景虎があんなに優しい目をするのも初めて見た。
それに対するあかりが景虎を見る目も、心の底から相手を信頼して頼りきっている目だった。
それに比べ…と茂助はため息をつく。
「花~。オレが殺されるとしても、それ書きたい?(泣」
どうせ、きっぱり肯定されるんだろうなぁと思って言うと、花は一瞬首をかしげて、すぐ
「ううん」
と首を横に振った。
「書きたいけど…茂助さんが死ぬのはやだなぁ。
仕方ないから当分はオチして喜ぶだけにしておくね♪
いつか時効になったら回想録かなんかとして『花娘は見た!』とか言う本書くかもだけど♪」
とにっこり。
この場合、死なせるのは嫌だと言う言葉程度でも喜んで良いんだろうか…茂助は迷う。
花屋の看板娘の花ちゃんは丸顔の愛嬌ある子で明るくて可愛くて…しかし腐女子な
だけじゃなくて美形なら性別リバーシブルなんでもおっけ~なニュータイプのオタクだった
のです…なんて洒落にならない(泣
堀川茂助…マイペースでオタクな彼女に振り回される人の良い男なのであった。
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