(え…)
別空間だった…空気が違う。
想像力豊かな花の脳内では、バックにふわふわと桜の花びらが舞っていた。
絹糸のような艶やかな黒髪がスローモーションではらり、と淡い桜色の着物に包まれた細い肩をすべり落ちる。
真っ白な顔が花に向けられる。
長い睫に縁取られた澄んだ黒曜石の瞳に驚きの色が浮かぶ。
同じく驚いたように小さく開いた淡い桃色の唇…
「か…かっわいー…」
つぶやく花。
入ってきた相手が女だと認めると、瞳から少し怯えたような色が消える。
その、この世のものとも思えないほど綺麗な姫は少し小首をかしげて、消え入りそうな、しかし例えようもない美しい微笑を花に向けた。
花もつられて笑みを返す。
「ごめんなさいね。…どなたですか?」
銀の鈴が震えるような透明感のある高く細い声。
「申し訳ありません。花と言います。
あの…今日からつるぎ様の身の回りのお世話をするためにお屋敷に…」
大声を出してはいけない。
何故かそんな気がして花は声を小さくした。
「まあ…つるぎ様の。そうでしたの」
目の前の姫はそう言ってまた綺麗な微笑を浮かべた。
息を飲む花。
「あの!」
花は思い切って口を開いた。
「はい?」
と姫。
「さ…触っちゃだめですか?!」
「え…?」
意味を取りかねてぽかんとする表情も美しい。
「あ、変な意味じゃなくてっ!」
花は慌てて顔の前で手をぶんぶん振る。
「私こんな綺麗なお姫様見るの初めてで…
もしかして夢か幻かなんかで触ったら消えちゃうのかなとか思って!」
想像力のたくましい娘である。
花は花の言葉に真っ赤になってうつむく姫に
「ダメ…です?」
と、もう一度聞いた。
「あ…はい。…どうぞ」
恥ずかしげにうつむいたまま、小さな声で答える姫。
(うっあ~~…かわいすぎ!)
花は内心思いながら
「失礼しま~す」
と姫に近づいた。
側によるとふわっと良い香りが鼻孔に広がる。
綺麗な黒髪をそっと手に取ってみる。
しっとりとした感触がなんともいえない。
そのままぎゅうっと抱きしめてみる。
「うわぁ…本物だぁ…」
思わず花がつぶやいた時…
「わあぁぁぁ~~!!!なにしてるんだ~~!!!」
戸口で茂助の悲鳴が響き渡った。
「申し訳ありません!!どうかこのことはつるぎさんや景虎さんには内密に!!!」
いきなり戸口でガバっと土下座する茂助。
「茂助さん、萌えるよ~!!これぞ萌えの極地!!」
顔面蒼白な茂助をよそに、興奮してかけよる花。
「萌えるじゃない!!
あかり様になんてことするんだ!つるぎさんや景虎さんに謀殺されるよ!!!
第一君は腐女子じゃなかったのか!!!」
混乱して叫ぶ茂助に
「腐女子でもあるけど…綺麗なら女の子も好きだよ~。茂助さん♪」
とノンキに言う花。
そして会話に全然付いて行けず、ぽかんとしているあかりを振り返る。
(そっかぁ…これが噂の…。綺麗すぎだよぉ~!
納得!さすがにつるぎ様がこの世で一番大切だって言うお姫様だよね~♪)
「美形同士のカップリングなら性別関係なくお~るおっけ~なニュ~タイプだから、花は」
あくまでマイペースな花に
「お願い黙って(泣」
と半泣きな茂助。
意味はわからないなりに、二人の掛け合いがおかしくてあかりは可愛らしい笑い声をあげた。
「茂助ちゃんのお知り合いなのですね」
「はい!あかり様笑うとすっごく可愛いですよねっ」
元気よく答える花。
その言葉にちょっとはにかんだような微笑を浮かべてあかりは立ち上がった。
「お茶でも煎れましょうか」
「と…とんでもない!オレ達もう失礼しますからっ!」
慌てて言う茂助の声を
「え~。あかり様の煎れたお茶飲んでみたい♪」
とさえぎるお気楽な花。
「丁度煎れようと思っていたところなので、茂助ちゃんも良かったら」
あかりはそれを受けてにっこり茂助にも笑顔を向ける。
花を一人で残して変な行動を取られるよりは…茂助は覚悟を決めた。
「申し訳ありません。お言葉に甘えて」
「では少し待っててくださいね」
とあかりが部屋を出て行く。
「は~な~。頼むよ~(泣」
二人きりになった途端に再度泣きが入る茂助。
「さすがつるぎ様の大切な姫だよね~。あんな綺麗な方初めてみたよ~vv」
花は茂助の言葉を聞いてない。
「つるぎさんだけじゃないから…うちの2大軍師敵に回したら、もうここじゃ生きていけない(泣」
がっくりと肩を落として言う茂助。
「え?!もしかして景虎様もなんだ?!
お二人はあかり様はさんでライバル?!素敵!!」
都合の良い言葉は耳に入るらしい。
花のはしゃぐ声に気が遠くなりそうな茂助。
「お願いだから…まぢやばいからね?花」
当然、興味のない言葉は花の耳には届かない。
やがてあかりが盆を手に戻ってきた。
皿の上に透かしの入った綺麗な懐紙。
そのさらに上には可愛らしい丸い菓子がのっている。
「わ~、お姫様のお茶ってお茶菓子からして違うんですね~」
前に置かれた皿から菓子を一つ手にとってまじまじと眺める花。
「金平糖という…南蛮渡来のお菓子らしいです。
丁度昨日信長様が送って下さったので」
にっこり言うあかりに目を丸くする花。
「信長様って…あのお大名の?」
「はい。」
うなづくあかりに、花はきゃ~っ!!とまた悲鳴をあげる。
「結構渋いおじ様ですよねっ!もしかして信長様も参戦なんですかぁ!」
「参・・・戦?」
意味がわからず、あかりはきょとん、と首をかしげた。
「いいです…気にしないで下さい、あかり様…」
疲れきって言う茂助。
その二人の様子を見比べて、あかりは美しい笑顔を二人に向けた。
「楽しい方ですのね、花さん。
今までわたくしの周りには同じ年頃のお嬢さんがいらした事がなかったので…宜しかったらお友達になって下さいませ」
そう言ってそっと花の手を取る。
「ひゃあああ!!聞いた?!聞いた?茂助さん!!お姫様のお友達だよぉ?!!」
歓声を上げる花。
(うああああ…)頭を抱えてびびる茂助。
「もちろんですっっ!もう、お友達でも恋人でも下僕でもなんでもなっちゃいます!!」
(いや…恋人は色々な意味でやめて欲しいし…(泣))
茂助の心の声。
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