kmt 人魚島sbg
形の良い唇が少しへの字に曲がっている。 泣きそうな表情で無言でトランクをクローゼットからひきずりだす義勇。 内向的で人見知りなため表情が薄いように見えて、錆兎と二人になると途端に子どものように表情が豊かになるのが可愛らしいと思う。 思うのだが…
「斉藤さんを一番端の部屋から自室までの移動…。 警察の方々曰く、斉藤さんの遺体には室内は引きずった跡があるのに、廊下にひきずった痕跡がないらしいんですけど… ということは廊下だけ担いで運んだってことですよね? 縛られているとはいえ斉藤さんをその場に痕跡を残さないような方法を考えて...
本当に理不尽だ…と錆兎は思う。 錆兎自身、本当にいつだってそれを自分が暴くことに何か意義があるのか?と思いながら暴いているのだが、仕方ないじゃないか。 大切な仲間や恋人の傍で事件を起こされて、下手をすれば巻き込まれて危険になるかもしれないんだから。
「今度は何だよ?もう事件は片付いたんだろ?」 全員ダイニングに集まり席につくと古手川が不機嫌にテーブルに肘をついてうんざりした顔をする。 それに事件を起こした松坂当人もうんざりしたように同じくテーブルに肘をついた。
宇髄と善逸を見送ったあと、錆兎が松坂の自白に従って松坂の部屋のクローゼットの中を調べると、斉藤の絞殺死体が発見された。 そこでまたふと感じる違和感…。 しかしはそれが何かどうしてもわからない。 そうこうしているうちに警察がやってきた。
一方で強引にダイニングから一階にある別室に連れ出された善逸はまだボロボロに泣いている。 それに宇髄は呆れた顔をしながらも、笑って室内にあるミニ冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターをぴたりとその頬に押し付けた。
「何故だよ…」 みんなが唖然とする中、一番信じられない様な顔をしているのは狙われた当人の宇髄だ。 「あ~あ、やだなっ。本人だけじゃなくてダチも嫌な奴だったかっ」 あっさり言って松坂がポケットから派手な色の携帯を取り出すとテーブルの上に放り投げる。 斉藤の携帯らしい。
青ざめる者、苛立っている者、目をキラキラさせている者。 悲喜こもごもの面々がダイニングの大きなテーブルを囲んでいる。 一応使用人たちによってお茶と茶菓子が配られるが、さすがについさきほど毒殺された人間が出たばかりなので、誰も手をつけない…と思いきやモリモリ食べている二人… 「呆れ...
「とりあえず…淡路さんの時と違って殺人事件確定なので、警察がくるまで現場維持ということで、みなさん部屋の物に手を触れない様に速やかにダイニングへと移動願います。」 錆兎が指示をすると、 「会長様とは言え、なんで年下の高校生が仕切ってるんだ…。」 と古手川が不満げな顔をする。
ほとんど音もなく絨毯の上に崩れ落ちる小さな体。 あちこちで上がる悲鳴。
「全く!下らない事でせっかくの優雅な読書タイムを台無しにするなんて」 不機嫌な顔の古手川。 淡路の死よりも自分の時間を邪魔された方が重要ならしい。
リビングへと移動する面々を見送って、錆兎は善逸を振り返った。 「で?なんだって?」 錆兎が聞くと善逸は少し迷い、そして 「夢見たいな話なんだけど……信じてくれる?」 と少し不安げに錆兎を見る。 「当たり前だろう」 錆兎はそれに即答した。
「じゃ、戻る前にいったん情報整理するか」 プールサイドの椅子に腰をかける錆兎に 「着替えないでいいのか?」 とやれることを終えた宇髄離れた廊下から声をかけるが、 「とりあえず…戻ると色々聞かれるんだろ?どうせ。 与える情報と隠す情報の整理をしてからにする」 と、苦笑する錆兎に走り...
「大丈夫かっ?!我妻っ!!」 とりあえず宇髄はすぐ降りてきた。 そして廊下にへたり込んだままの善逸の腕を取って立ち上がらせる。 「俺は大丈夫…だけど……」 声が震える。
「結局さ、恋愛ってどこまで相手を許容できるかだと思うんだよね」 と、語る高田。 夜中のリビング。 なんとなく手持ち無沙汰組が集まってワインやジュースを飲みながらの雑談中。 未成年なので酒は飲めないものの、炭治郎や善逸もそこに加わっている。
──さっきは良いように使って悪かったな 錆兎達が私室へ引っ込んでから、宇髄は改めて使用人に食後のお茶をいれさせて、善逸を促してそれを手に部屋の隅にある小テーブルへと移動した。 そこでそう始める彼に善逸は少し悩んで、その言葉がさきほどの水野とのやりとりのことだと気づく。
「ごめんなさい、私、冨岡さんに対してひどいこと思ってた…」 水野が言うと、義勇は大きな目をきょとんと見開く。 そこで水野は少し迷って、それでもそれまで思っていた事を打ち明ける。
──綾瀬さん、お手数おかけしましてすみません。 と、足を運んできてくれた綾瀬にまず錆兎が頭をさげる。 それに綾瀬はにこやかに ──ううん。全然っ。細かい作業が続いてたから休憩には良いくらいよ とキッチンから持参した焼き菓子の籠を揺らしながら言う。 そして ──メイドさんがすぐお茶...
「これは…落ちないな。 義勇に似合っていたのにもったいない」 とんとんと濡らした布で汚れの部分を叩く錆兎。 その間に義勇自身は禰豆子に手伝ってもらって別のドレスに着替えている。
「恋人っていうより親子みたいだよね。」 食事が終わって錆兎にデザートを口に運ばれている義勇に水野がクスリと笑う。 「あ~、なんていうか、そうだね、保護者と被保護者って感じだよね」 と、それを受けて笑う綾瀬。 そんな会話が交わされた時、それまで黙っていた炭治郎が唐突に…本当に唐突に...