人魚島殺人事件_42_会長様最初の推理

「とりあえず…淡路さんの時と違って殺人事件確定なので、警察がくるまで現場維持ということで、みなさん部屋の物に手を触れない様に速やかにダイニングへと移動願います。」
錆兎が指示をすると、

「会長様とは言え、なんで年下の高校生が仕切ってるんだ…。」
と古手川が不満げな顔をする。

それに対して宇髄がやれやれと呆れた顔をしながら言った。

「俺がここの家主として会長様に一任するからだよ。
たぶん宇髄財閥総帥の俺の爺様が居たとしても、OBの警察庁の警視が居たとしても、それで納得すると思うぜ?
まあ一応補足しておくと…会長様は警察関係の親の家で育ってて、去年の夏の連続高校生殺人事件の犯人を素手で確保した他、その後俺達も一緒だったのも含めて5件の殺人事件を全て解決してみせたという、スーパー高校生なわけだ。
ま、犯人がまだ特定されていない以上、自分が次の犠牲者になる可能性が皆無ではないという現状で、死にたくないなら指示に従っておいた方が賢明だと思うわ」

錆兎の言葉に
「どうせ狙われてるのは宇髄さんで…犯人は斎藤あたりなんだろ、どうせ。
そうまで言うなら斎藤の居場所みつければいいんじゃないか?」

それでも少し不満げな古手川に、錆兎は小さくため息をついた。

「もう少し確定できる物が見つかるまで黙っておこうと思いましたが…今回の一連の事件の犯人は斉藤さんではありません。
下手をすると斉藤さんが最初の犠牲者になっている可能性もあります」
錆兎の言葉にその場にいる全員が驚きの声をあげた。

「ちょっと待った…それどういうことだ?!どこまで状況掴んでるんだ?」
高田が目を見開いて聞くと、錆兎は
「まだ推測の域をでないんだけどな…」
と苦笑しつつ独り言のように零す。

そしてその後、皆に対して発言した。

「詳しくはまだ言えませんが、これは最初に拉致した斉藤さんの犯行に見せかけた真犯人の犯行の可能性が非常に高いんです」

それに
「真犯人は…もうわかってるの?」
驚いたように目を丸くする綾瀬。

なんだか目がキラキラしている気がしないでもないが、まあ殺された二人とも斎藤とも知り合いではなく、自分が狙われているわけでもなさそうなので、いわゆるミーハーというやつなのだろうと、錆兎は彼女に

「まあ…状況的には。
ただ状況証拠だけなので物証は警察が来てから協力を求めてということで…」
と、困ったような笑みで答える。

そしてまた全体に。

「でも一つだけ重要なポイントを。
斉藤さんが拉致されたタイミングは最初にリビングで集合したあとくらいです。
その後水野さんの所に斉藤さんからメールが来ているんですが、これを打ったのはおそらく拉致した斉藤さんから携帯を奪った真犯人だと思います。
ということで…その後真犯人は携帯メールを他にも送って撹乱している可能性があります。
もしかしたら淡路さんの不可解な死もそれが原因かもしれないんですが、淡路さんの携帯がみつからないのですでに犯人に処分されている可能性もありますし、警察に通話記録を調べてもらう予定です。
他にも何か送られてる方がいらしたら危険なので申告して下さい。
直接言いに来にくかったらメールか電話でどうぞ」

そう言って錆兎は自分のメルアドと携帯番号を明かす。
もちろん、極々プライベート用のとは別に用意した物だ。


そうしてしばらく全員が少し距離を取りつつ警察を待つ。

「会長様、今回の諸々の全容はもう見えてんのか?」
と、綾瀬と竈門兄妹に義勇を預けて一人考え込む錆兎に宇髄が駆け寄ってきた。

「あ~…だいたい…は?」
と考え込むように腕組みをしながら若干歯切れが悪く答える錆兎。

「なんか腑に落ちねえことが?」

「ああ。まあ普通に考えるなら、3件目は確実にお前が標的で…1件目も義勇と禰豆子が居たとしてもターゲットはお前だったんじゃないかと思うんだよな。
だが、2件目。
淡路さんの殺人だけはどう考えてもお前と間違ったとは考えられないしな。
体格が違い過ぎる。
そうなると本当に淡路さんを狙ったのか…。
でもそうなるとな、仮面で顔を隠して義勇っぽいウィッグで義勇の衣装を着せた理由がわからん。
義勇に危害を加えるぞという脅しだったのか…あるいは…」

「あるいは?」

「殺したいと思って計画をたてた人間と実行犯が別で、実行犯には義勇だと思わせて殺させたのか…」

「ふむ…」

「そうなると、だ。
逆に初回のガラスの短剣のターゲットも義勇という可能性が出てくるんだが、なら最後の水野さんが死んだ毒入りジュースの件が何故お前だったのかというのが…な。
あるいは水野さんがこのところ義勇に接触を試みていたから義勇の所へ行くと思ったという可能性も皆無ではないが、義勇は一人じゃなくて炭治郎や禰豆子、綾瀬さんが常に傍にいるから、本人が飲む前に他が飲む可能性が高いしな。
…ということで、もう少し情報を集めて色々を確定したい。
殺害を企ててた人間はわかるんだが、明言はまだ避けたいところなんだ」

そんな会話をしている間に今度は錆兎のスマホにメールが届いた。

それを錆兎は無言で熟読後、
「確定だ。動機は不明だが物理的事象については計画犯、実行犯、ターゲット全てわかった」
と、全ての謎が解けたにしてはやや複雑そうな顔で錆兎が言った。


そう…ああ、嫌だな…と今回も錆兎は思っている。

いつもいつも思うのだが…真実は必ずしも正義とは限らない。
日本国の法を遵守するという意味では正しい事なのかもしれないが、加害者と被害者はいつも紙一重で、被害者は法的には一方的に被害者として扱われるのだが、加害者には加害者の思いもある場合もある。

警察でもない自分がそれを暴いていいものなのか、それが傲慢な自己満足じゃないと言いきれるのか、正直自信がない。
それでも…法を曲げて暴力で解決というのが正しいとは思えない以上、信念に基づいてそれを法にゆだねるべく犯罪を明らかにする、というのが自分にとっての正義ではある。

はあ…と思わずため息をつく錆兎。
しかしそんな時にいきなり高校生組の方から愛しの恋人様が駆け寄ってきた。

満面の笑み。
可愛い、愛おしい。

だが、何故いきなり?と思っていると、義勇は
「なんか見てたらわかったって言ってたみたいだから。
何かさっきの報告で謎が全て解けたんだろう?
さすが錆兎だっ!
いつだって錆兎は世界で一番賢くてカッコよくて俺の自慢の恋人だっ!」
といきなり言われて錆兎は目をぱちくりしてしまう。

いやいや、全ての謎が解けたわけではない。
動機もよくわからず起こった事はたしかだが色々がつぎはぎだ。
だがまあ敢えてその言葉を否定することもないのだが…

ともあれ、そうやって世界で一番可愛い恋人様に持ち上げられればどこまでも浮上してしまう自分は単純だと思う。

「よしっ、さんきゅー義勇。次に進む気力が出てきた」
と抱きしめると、義勇は抱きしめられたままきょとんと小首をかしげた。

それでも抱きしめ返してくれるので、錆兎は小さく息を吐き出して気合いを入れると、宇髄にふっきれた笑顔を向けた。

「物証は警察が来てからということで、先に今回の一連の事件のあらましについて説明するから全員テーブルにつくように言ってくれ。
ついでに…興味がない場合は余計な事を言わず黙って寝てるように、質問や意義は説明が終わってから受け付けるから、とりあえずは途中で口をはさまず聞いててくれと伝えてくれ」

と、指示して宇髄がそれに答えて全員をテーブルにと集めている間に自分の中で一連の事件の時系列についての整理を終えて錆兎はとりあえず説明を始める事にした。





0 件のコメント :

コメントを投稿