人魚島殺人事件_43_会長様の推理展開

青ざめる者、苛立っている者、目をキラキラさせている者。
悲喜こもごもの面々がダイニングの大きなテーブルを囲んでいる。

一応使用人たちによってお茶と茶菓子が配られるが、さすがについさきほど毒殺された人間が出たばかりなので、誰も手をつけない…と思いきやモリモリ食べている二人…

「呆れたな。お前は危機感がないのか?
それとも犯人を知っていて自分が安全圏だという確信でもあるのか?」
テーブルに行儀悪く肘をつきながらさすがにあきれ顔で言う小手川。

その言葉は二人のうちの一人、綾瀬に向けられたものだったのだが、それに答えたのはもう一人の方、義勇である。

口に頬張っていたものをお茶と一緒にごっくんと飲み干すと、
「食べたら危険なら錆兎がそう言う。
錆兎は世界一賢くてカッコよくて強い男だから、錆兎が止めないということは大丈夫だということだから」
と満面の笑みで言い切った。

「同じく。
恋人の義勇ちゃんに少しでも危険があるなら会長様が止められるから、義勇ちゃんが食べてる物は大丈夫な物でしょ。
せっかくの宇髄家の美味しいお茶とお菓子を頂かないなんてもったいないし」
と、隣で綾瀬もそう言って、二人して顔を見合わせてにっこり。
それを聞いて禰豆子と遥もおずおずと菓子に手を伸ばし始める。

そうして主に女性陣の間に和やかな空気が流れ始めたところで、錆兎が全く和やかではない話を語り始めた。


「今回起こった事件は4件。
一件は宇髄達に向かってガラスの短剣が落ちてきた事、一件は淡路さん殺害、一件は水野さん殺害。
そして…もう一件は表沙汰にはなっていませんが斉藤さん拉致です。

まず最初に起こったのは斉藤さんの拉致です。
これは俺達が最初にリビングで顔見せをして古手川さんの言葉に斉藤さんが怒って退室してから、俺と綾瀬さん以外がリビングに戻るまでの間のタイミングで起こっています。
斉藤さんが腹を立てて一人退室したのを見て、真犯人は今後起こす事件を、動機もあり性格的にもいかにもそういう事件を起こしやすそうな激しやすい性格の斉藤さんの仕業にしようと、斉藤さんを誘拐し、その携帯電話を奪取します。

次に起こったのが宇髄達の頭上にガラスの短剣が落ちてきた事件。
これは唯一真犯人が全く関与していない事件です。

しかしこの事件の犯人はこの事件を真犯人に目撃されたため、今後斉藤さんを装った真犯人に脅迫され続ける事になります。

ちなみに…この事件の犯人からはすでに俺の方にメールで申告がきています。
犯人は実は小手川さんとは幼馴染で、古手川さんがそれまでは特定の恋人を作らず一人の相手と長くつき合う事もしなかったので、恋人と言う形ではなくともずっと親しい付き合いであることを嬉しく思っていたのが、その古手川さんがここにきて義勇に少し特別に思えるような執着を見せたように思って、別に殺人とかではなく軽い嫉妬心からの嫌がらせのつもりで短剣を落としました。
普通ならそこで義勇に若干ひやりと嫌な思いをさせて終了というはずだったのですが、それをたまたま庭に出ていた真犯人に目撃されていた事から悲劇が始まります。

真犯人はまず他の人に、短剣を落とした犯人は”オレンジ色”の物を身につけていたように見えたと嘘の証言をして、いかにもその犯行は斉藤さんが起こしたものであるかのように印象づけました。
しかし…斉藤さんは俺と義勇が最初に到着した時点ですでにオレンジ色の上着を脱いでいたんです。

なので、もし斉藤さんがあのタイミングで短剣を落とすとしたら、外に行く時に来ていた上着を室内に入って脱いで、何故か部屋に戻ってどこかに行くのでもないのにわざわざまた上着を着直して短剣を落として…などという行動を取った事になります。
これは本当に斉藤さんが短剣を落とした犯人だとしたら明らかに不自然な行動です。

ここで…本当に斎藤さんが姿を現したなら斎藤さんを見たという嘘の証言がバレますし、この時点では真犯人は斎藤さんを拉致しています。
時間の都合もあって殺すタイミングはもう少しあとになりますが…

で、ここから真犯人は斉藤さんが生きているという事をアピールするために、仲の良かった水野さんと淡路さんに、自分はこの島に来た時の宇髄の態度に腹を立てている。
そしてすでに短剣を落とすと言う嫌がらせをしていて、今後も嫌がらせをするつもりだから協力するようにというメールを送っています。

動機についてはわかりませんが真犯人は次に淡路さんを殺そうと画策します。
まず淡路さんを呼び出して、おそらく義勇に体格が似ているので試着して欲しいとでも言ったのでしょう。
撮影で義勇が着る服を着せ、義勇の髪に似せたカツラをつけさせ、これも衣装の一部だからと仮面をつけさせ、撮影と同じ場所で見たいからとプールサイドで待つ様に言います。
そしてその一方で短剣の犯人にメールを送りました。

内容は

”これから義勇をプールサイドに呼び出すので、後ろからこっそり突き落として欲しい。
突き落として即逃げればバレないし、ちょっとした嫌がらせをしたいだけだ”

という事です。

短剣の犯人にしてみたら嫌いな義勇にちょっと嫌がらせ程度に思って、短剣の件について脅された事もあり、軽い気持ちで実行して逃げたのですが、実際はそこにいたのは”泳げない”淡路さんで…溺死。

ここで誰かに相談できれば良かったんですが、思いもかけない自体に犯人は動揺します。
そこにまた斉藤さんを装った真犯人からのメール。

”今回の事は完全に過失だった。犯人が淡路さんとほぼ接触がなく、過失だったという事を証言してやるから、今度は宇髄に対する嫌がらせに協力するように。”

という内容でした。


今回は本当に簡単な事で、下剤の入っているリンゴジュースをテーブルに置いてあるので、何も知らない水野さんあたりをそそのかしてそれを宇髄に持って行かせろというだけでした。

このみんながリビングにいるように言われている中で腹を下せば恥をかくだろうからといわれて、犯人は一人で所在ない水野さんに同じく一人だった宇髄に飲み物でも持って行くように勧め、水野さんは薬入りりんごジュースを宇髄の元に持って行きますが、今回もここでアクシデント。
リンゴアレルギーだった宇髄はそれを飲めず、ミネラルウォータで和解の乾杯をする宇髄と一緒に、その実は毒薬入りだったジュースを飲んで水野さん死亡というわけです。


で、まず斉藤さんが拉致られていたというのは、善逸が以前俺と義勇の行動を誤解して正面の空き部屋に入った時見た夢の話を食事時にしたのを覚えてますよね?
あれが実は夢ではなくて、暗い部屋で壁にかけられていた仮面をお化けと勘違いしたわけなんですが…。
その際聞いたうめき声。
これは当然仮面からもれていた物ではなく、隣の部屋に拉致されていた斉藤さんがだしていたものだったんです。

善逸から夢の話を聞いた時、真犯人は念のためと慌てて斉藤さんを拉致していた一番端の空き部屋のクローゼットから斉藤さんを移動させました。
もしかしたらこの時点で斉藤さんは殺害されているのかもしれませんが…。
とりあえず空き部屋のクローゼットからは斉藤さんの物と思われる毛髪が見つかっています。
これは警察がきたら鑑定してもらいます。
斉藤さんが自主的に隠れていたとしたらうめき声を上げたりはしないでしょうから、まあ猿ぐつわでもはめられて拉致されていたと判断するのが妥当でしょう。

という事で…短剣を落としたのは平井さん。
ご本人からメールを頂きました。
真犯人は…今の説明を聞いて頂けばお分かりかと思います。
短剣が落とされた時に”オレンジ色の何か”が見えたと発言し、善逸から空き部屋のお化けの話を聞いて即空き部屋に向かった人物です…
たぶん…今身体検査をすれば斉藤さんの携帯が出てくると思いますが…」

シン…とする中、一斉に視線が一人に向けられた。








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