人魚島殺人事件_44_犯人の独白と号泣の善逸

「何故だよ…」
みんなが唖然とする中、一番信じられない様な顔をしているのは狙われた当人の宇髄だ。

「あ~あ、やだなっ。本人だけじゃなくてダチも嫌な奴だったかっ」
あっさり言って松坂がポケットから派手な色の携帯を取り出すとテーブルの上に放り投げる。
斉藤の携帯らしい。

「ホントに…金あって顔良くって…その上運まで良いって最悪だなっ。
そのくせ、さも自分はたいした人間じゃねえ、金持ちの爺と自分は別だからってやたら主張するってマジ嫌味だぜっ。」
松坂の言葉に宇髄は無表情になっていく。

「単にダチで見栄え良い奴いねえ?って話されただけで、家にうなるほどお金ある恵まれたおぼっちゃまが、上から目線で別荘まで提供してくれてって、さぞや気持ち良かっただろうよ」

「…別に上からじゃねえよ。
ダチなら持ってて使えそうなモン提供すんの、当たり前だろ」
怒ることも泣くこともなく、なんの感情も見せずに淡々と宇髄が言った。

「上からだろうが。
金や地位だけじゃねえ。
何でも持ってるお前が親父が死んで家に金がなくなって海陽もやめなきゃなんなくなって絵しか残らなかった俺より才能があって、先生にぜひ弟子にって言われて…。
喜びゃいいのに自分は絵の道になんて進まないからって話蹴って…。
俺は絵しかなかったからお前の代わりのお情けの話だろうがしがみつくしかなかった。
絵の道になんて進まねえって蹴ったお前より才能がないって自他ともに認めてようがそこにすがるしかねえみじめさなんて宇髄財閥の跡取り様にはわかんねえよな」

吐き捨てるように言う松坂に、感情的に叫んだのは当人ではなく善逸である。

「なんでっ?!
別に偉そうになんかしてないじゃんっ!
宇随さんは俺が困ってたから助けてくれただけだよっ!
何もないって言うなら、俺の方がなんにもないよっ!
あんたそれでも2番でも3番でも偉い先生に弟子にしてもらえる才能があるんじゃんっ!
元海陽ってことは頭もいいんじゃんっ!
俺なんか元々親いなくて爺ちゃんと二人だし、貧乏だし、頭も悪いし、女の子にだって何度も騙されるし、もちろん芸術とかの才能だってないっ。
だけど宇髄さんはそんな俺を見下したり嫌なこと言ったりしたことなくて、いつだってみかえりなんて求めないで色々助けてくれてんだよっ!
すっごいいい人なんだよっ!!
なんだよ、あんた、ちきしょう!!」
ボロボロ泣きながらそこまで言うと、善逸は嗚咽で言葉が続けられなくなった。

それに宇髄が苦笑した。
困ったような…嬉しそうな…なんとも言えない表情を浮かべて
「お前はぁ…なんで俺じゃなくてお前が怒ってお前が泣くんだよ、マジ」
と笑う。

「わりい…会長様、あと任せた。ちょっとこいつ落ち着かせてくるわ」
ガタンと立ち上がってそのまま善逸を連れて部屋を出て行く宇髄を錆兎は黙って見送った。



「ホントに…宇髄を殺したかったのか?」

シン…と静まり返る中、今度は義勇がうつむいて言った。
互いに好意で結ばれていると思ってた奴が実は…というのは、身につまされる…。


「色々嫌な思いを抱えさせたのはわかるけど…
それを指摘するでもなく離れるでもなく、殺したくなるもの?
…それなら…どうすれば良かった?」

「ああ、誤解させたかもしれないけど、別に…俺、冨岡さんの事まで殺したいとか言ってないよ?
平井に関しては別に殺すまでじゃなくて、小手川の反応でイラっとして嫌がらせしたくなっただけだろうし、俺は元々冨岡さんになんちゃらってしてないだろ?
淡路の時だって冨岡さんに見せかけたのはその方が平井を動かしやすかったから。
で、なんでそうまでしたかって言うと、手強い会長様を宇髄から引き離したかったから。
宇髄と居ると冨岡さんが危険だってことになれば、会長様は絶対に君をとるだろうからね」

「…松岡さんが…じゃなくて……
自分も同じ経験したことがあったから…。
仲良くしてくれてると思ってた人に殺したいほど憎まれてて…
それ知った時に本当に死にたくなった」

「あ~、なるほどね。
でも今は立ち直ってるんだよね?」
「…錆兎が傍に居て、必要だって言ってもらったから…」

「じゃ、宇髄もきっと大丈夫だろ」

不思議なやりとりだ…と義勇は思った。
宇髄がいなくなった途端、刺々しかった松坂の声音も普通になる。

そして二人のやり取りを聞いて何かがおかしい…と錆兎は違和感を覚えた。
まだみんな何かを見落としている気がする…大切な何かを…








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