人魚島殺人事件_47_会長様の再推理

「今度は何だよ?もう事件は片付いたんだろ?」
全員ダイニングに集まり席につくと古手川が不機嫌にテーブルに肘をついてうんざりした顔をする。
それに事件を起こした松坂当人もうんざりしたように同じくテーブルに肘をついた。

「なんだ?大事なお友達の命狙った挙げ句に暴言吐いた殺人犯を集団で罵りたくでもなったか?」
それに善逸が立ち上がりかけるが、それを炭治郎が制する。

「暴言…はそうかもしれませんけど、命は狙ってないませんよね?松坂さん」
錆兎は静かにそう始めた。
その言葉に周りがざわめく。

「はあ?何言ってんだよ?毒盛ったのも斉藤装って平井焚き付けたのも全部俺だぞ?
それはさっきお前自身が暴いた事だろうがっ。おかしいんじゃねえの?」
吐き捨てる様に言う松坂に、錆兎はうつむき加減に息を吐き出した。

「やった事は確かです。でも俺は動機を見誤っていました。
今回殺されたのは斉藤さん、淡路さん、水野さんの3人。
そして…松坂さん、あなたが殺したかったのはまさにこの3人だったんですね」
錆兎の言葉に松坂は一瞬言葉に詰まった。

そしてすぐ
「何言ってるんだかわかんねえよ」
と答える。

そんな風に否定をされても錆兎は淡々と進めるのみだ。

「まず違和感は淡路さんの一件でした。
水野さん殺害については確かに宇髄を狙ったと言うのも不自然ではないし、斎藤さんの殺害については平井さんを動かすため…という理由がある。
でも宇髄に対する悪意だとしたら淡路さんを殺す理由がみあたらない」

あ~そういえば!と一部ハッとする人間もいるが、松坂は
「あれは冨岡さんに見せかけた会長様に対する脅しだよ。
関わり過ぎれば彼女が危険な目に遭うかもと思えば天元よりは冨岡さんの安全を取るだろっ」
と鼻で笑う。

それにも錆兎はやっぱり淡々と自説を述べた。

「それにしては回りくどすぎて気づかれない可能性が大きい。
義勇の身の安全と引き換えに…と言うなら、人目につかないようにわざわざ淡路さんに義勇の衣装を着させて殺させるなんてことまでするのはリスクが高すぎる。
それならもういっそ斎藤さんの携帯で義勇に対する犯罪予告でもした方が念のためということで俺が義勇を連れて島を離れる可能性は高いですよ。
そこではっきり狙われているのは義勇と言う形にすれば、宇髄を殺そうとするにしても他の人間には危険が及ばないだろうということで油断しますしね」

「………」

「ということで、淡路さんの殺害は淡路さんを殺したくて殺したんだと言うところから今回の一連の事件を考え直してみたわけです」

「……それで?」

「松坂さんが殺したかったのは宇髄ではなかった。
それを立証する方向で色々思い返してみたわけですが…」

「………」

「水野さんの殺害時、他にも飲み物がたくさんあったにもかかわらず、松坂さんは唯一宇髄が飲めない飲み物に毒物をいれているんですよね。
宇髄がリンゴアレルギーなのを松坂さんが知っているというのは、夕食時の松坂さんの言葉からわかりますしね。
そして平井さんに命じて水野さんがそれを持って宇髄の元へ行くように仕向けている。

宇髄は毒入りの飲み物を飲めない。
とするとそれをどうするのか…と考えると、こちらも水野さんを殺すのが目的というのが正解。
こうなるとそれぞれ淡路さんと水野さんを殺すのが目的だったと考えるのが正しいでしょうね。
そう考えると残る一人で二人と密接な付き合いのあった斎藤さんの殺人も、偶然ではなく必然だったとわかってきました。

小手川さんの事で義勇や禰豆子に嫌がらせをしていた平井さんに、いかにも義勇に嫌がらせをするのにちょっと協力するだけとそそのかして、淡路さんを殺す手伝いをさせていたんです。

淡路さんが義勇のような格好をしていたのも、おそらく淡路さんを溺死させる手伝いと思ったらいくらなんでも躊躇するであろう平井さんに”泳げる義勇をプールに突き落として脅す”だけの手伝いと思わせて協力させるためだったんでしょう。

水野さんの時も”水野さんを毒殺する”手伝いは躊躇しても、小手川さんをめぐるライバルである水野さんに家主である宇髄に”下剤を盛らせて評判を下げる”程度なら平井さんもやるだろうという計算の元で計画してたんです」

「馬鹿馬鹿しい。君は推理オタクか。考えすぎだ!
それこそ俺には彼女達を殺す動機も隠す動機もないだろっ!」
松坂がソッポをむくと、錆兎はまたチラリと大学生組に目を向ける。

「殺す動機は…4年前の斉藤さんが冤罪でとある人物を陥れた事件じゃないですか?」

「…なんで…会長様がそんな事知ってんだ…」

「最初は水野さんにそういう事があったって聞いていまして…。
斉藤さんに脅されて嘘をついて証人になったが今でも怖いと言っていたんです、水野さん。
で、さっき念のためにと警察の赤井さんに詳細を調べてもらったんですが…
冤罪で陥れられた人物…歯科医の松坂雄一さん。
その後自殺していますよね…」

「ほんっとに嫌な男だな、お前…」
松坂の言葉に錆兎は
「その言葉…事件に関わるたび言われているんですけど…」
と深い深いため息をつく。







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