人魚島殺人事件_48_本当の動機

本当に理不尽だ…と錆兎は思う。

錆兎自身、本当にいつだってそれを自分が暴くことに何か意義があるのか?と思いながら暴いているのだが、仕方ないじゃないか。

大切な仲間や恋人の傍で事件を起こされて、下手をすれば巻き込まれて危険になるかもしれないんだから。

今まで遭遇した事件の犯人には大抵は事件を起こすような事情があって、今回のように被害者の側に大きな問題がある場合も多々あって、自分が本当に余計なお世話をしているのは錆兎自身が一番よくわかっている。

だから錆兎にしたら犯人の側に声を大にして言いたい。

──俺の周り…少なくとも義勇に影響があるかもしれない範囲で事件を起こさないでくれ!
…と。

そんな気持ちで思い切り、はああぁあぁ~~~と息を吐き出したあとにいい加減にしてくれと主張しようとしたが、ふと隣で義勇がキラキラした口ほどに物を言う目で『かっこいいっ!今回も華麗に事件を解決するなんて、さすが錆兎(はぁと)』と無言の嬌声を送ってきているので、なんとか思いとどまった。

そして…そんな錆兎の声に出さない訴えは当然誰にも察してもらえることはなく、当の犯人の松坂は語り始める。


「確かにな…斉藤、淡路、水野の3人のおかげでうちの家はめちゃくちゃにされたんだ。
父が優先席の前で周りが迷惑するくらいにデカい声をはりあげて携帯かけていた斉藤に注意しただけでな。
痴漢の冤罪着せただけでなくて、それを実名入りでネットに流したんだぞ?あいつ。
おかげで父は周りの目に耐えられなくなって自殺。
俺らは代々住んでいた土地を離れて引っ越しを余儀なくされ、俺と弟はそんな不名誉な死に方をした一族の恥の息子ということで迷惑顔の伯父にひきとられた。
そんな風に他人の家をめちゃくちゃにしておいて、あいつらそんなことすっかり忘れて普通に生きてるんだぜ?
俺が自分達にめちゃくちゃにされた家の人間だとも知らずに。
…で、許せなかった。これでいいか?」

「まだ…隠していた動機について語っていませんけど…」
「でしゃばりは嫌われるぞっ!」

「…あなたに嫌われようと、誰に嫌われようと、俺は俺の手の内で守れる範囲の大切な友人達と恋人の身と心の安全を守らねばならない。
嫌なら俺の前で指摘をされて困るようなことをしないでください」

「皆の愛と正義の会長様じゃないのか?」

「漫画の読み過ぎです。
全ての人を救える可能性があるのなんて神様くらいですよ。
少なくとも俺は最優先が恋人、その間に超えられない天より高い壁があって、次に恋人が望んでくれる限りは自分、そうじゃないなら友人で、その次が客観的に恋人に必要になるであろう順位で優先が決まる一般人です」

「会長様、恋人のために世界を回しすぎだろ」

…と、はたから聞いたら非常に緊張感のない…しかし実は錆兎にとっては大まじめなやりとりを交わしたあと、錆兎は、──ということで続けます。と、一言言って、話を続けた。








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