人魚島殺人事件_49_隠されたもう一人と明かされた思い

「斉藤さんを一番端の部屋から自室までの移動…。
警察の方々曰く、斉藤さんの遺体には室内は引きずった跡があるのに、廊下にひきずった痕跡がないらしいんですけど…
ということは廊下だけ担いで運んだってことですよね?
縛られているとはいえ斉藤さんをその場に痕跡を残さないような方法を考えて殺害後、秒で空き部屋から距離のある自室に運んで見つからないような場所を探して隠して…その後すぐに客室に上がってきた人物と普通に戻ってくるってタイミング的に難しいと思うんですけど…。
それが隠してた動機ですか?」

「何言っているのか…」

「もうやめよう、松坂君」
松坂の言葉を成田がさえぎった。

「やっぱり…あなたも共犯ですか?」
驚きもせず錆兎は成田に目をむけた。

「うん」

「動機は…妹さんに対するいじめです?」
錆兎の言葉に成田は本当に驚いたように目を丸くする。

「よく…そこまで調べ上げたな」
「いえ…憶測です。
綾瀬さんから妹さんがいるって聞いて…水野さんからは昔やっぱり斉藤さんに脅されて一緒に無視した子が学校に来なくなって最終的に学校をやめてしまったと聞いていたのでもしかしたらと思って。
義勇に個人的興味を持っている様子もないのに、水野さんが義勇に悪意を向けていた時、随分水野さんを睨んでたいましたし…。
あの3人が誰かをいじめるという図を激しく憎悪したんですね」

「ほんと…伊達に天才扱いされてないね」
成田は笑った。
穏やかな笑顔だった。

「ご明察の通り。
俺が上に上がって行ったら丁度松坂君が端の空き部屋のドアを開けて顔を出したところでね…。
空き部屋から松坂さんの部屋まで遺体を運ぶのに協力したよ。
あの時点で色々を明らかにしていれば残りの2件は起こらなかったのかもしれないけど…ごめん、俺は起これば良いと期待して放置した。
妹はいまだ対人恐怖症で、高認だけは取って大学受験資格は取らせたから、一緒に通ってやれればって思って俺も一年遅らせて一緒に大学通い始めたけど初日からもうダメでね…今俺一人で通っている訳なんだけど…。
人一人の人生をそんな風に変えておいて、本人達は大学生活エンジョイしてるんだよね…。
妹の事も松坂君のお父さんの事もあって…それでもまだ懲りてなくて冨岡さんに敵意向けていて、最初は冨岡さんに妹みたいな思いさせないように脅すだけにしておこうと思ったんだけどね…
彼らは生きてる限りろくな事はしないと思えてきちゃったんだ…。
遺体を運ぶの手伝って他二人も見殺しにしたのは後悔してないよ。
これで新たな犠牲者は出ない」

「だしてんのに気付かないだけでしょうがっっ!」
その時いきなり思わぬ方向から叫び声がした。

それまであくまで錆兎と加害者達の間でだけ交わされていた会話に耳を傾けていた他の面々は、驚いて叫び声をあげた善逸の方へと視線を向ける。

「あんたは妹がいじめられたとか言ったけど、あんたがやってるのもイジメと一緒ですよっ!!
というか、斉藤さんよりえげつないですっ!
斎藤さん達はあんたの妹さんにとっちゃ所詮ただのクラスメートでしょうがっ。
それでもそこまで堪えてんのに、クラスメートどころか親しいと思ってた友人に影で殺したいほど嫌われてたなんて言われて平気だと思うんですかっ、宇髄さんがっ!
知ってて言わせておくあんたも同罪ですっ!
宇随さんっ…こんなに良い人っ…なのにっっ…」

と、そこまで一気に言ってそのあと嗚咽で言葉にならない善逸。

うあ…滅多に本気で怒らない善逸がキレてる…と彼をよく知る炭治郎や禰豆子や義勇は驚いて目を見開いた。

「だな…。巻き込んで不愉快な思いさせて本当に悪かったよ、宇髄君」

成田は立ち上がって神妙な顔で宇髄にそう言うと頭を下げた。
それを見て錆兎は今度は松坂に目をやる。
その視線に気づいて松坂は錆兎に向かってにやりと笑みを浮かべたあと、視線を宇髄に移した。

「まあ…一応ごめん、とは言っておくけど…。
天元は大丈夫だと思ってたんだ。
絶対に誰かが一緒にいてくれるだろうなって。
俺もそうだったけど…色々敷居が高いから不特定多数によってこられたりはしないけど、チャラそうに見えて意外に友情に厚い人間だからな。
それがわかる奴は寄ってくる」

「お前さあ…それわかってんなら俺のダチ泣かせてんじゃねえよ」
その言葉に号泣する善逸を宥めるようにポンポンとその背を軽く叩いてやっていた宇髄は色々思うところはあったのだろうが松坂にとりあえず呆れた視線を向けた。
それに気づいた松坂が続ける。

「俺もそうだけどさ、大勢に囲まれていても必ずしも全員が心許せる開いてな訳じゃない。
ていうか、そんな相手はレアで…。
俺は自分で言うのもあれだが友人知人は多い。
でも大勢に囲まれているからこいつといれば外れないって理由で俺と居るやつがほとんどで、俺が何かもっと立場が強い奴に嫌われるような事したりしたら皆離れていくのわかってたからさ、一人くらいは俺自身といたいって思ってくれる奴と居たかった。
お前といる時が一番気負いなくホッと出来た。
…俺にとってもなぁ結構重要な位置を占めてたダチだったんだけど、それでも…俺にとってはそれを失ってもどうしても許せねえって思いがあったんだわ、家族を崩壊させた馬鹿どもには…」

そこで大方の現場検分も終わった警察に松坂と成田、それに平井が連れて行かれた。

「帰り支度…しねえとな…」
さすがに殺人事件まで起きると当分ここは使えない。
宇髄が言って立ち上がるとまずまだ涙が止まらない善逸を連れてダイニングを出て行った。

禰豆子も当然それに続き、さらに古手川、遥、別所と続き、錆兎はダイニングで同席していた赤井と共に、別室で何か話をしている。

そんな中で炭治郎は一人そ~っと抜け出した。

「あ…義勇さん…移動しないんですか?」
まだ警察が慌ただしく行き交う中、リビングの入り口あたりでそ~っと手を合わせる義勇に並んで手を合わせながら炭治郎は声をかけた。
「寂しくて怖いままだったから…つらかったよね…」
「水野さんです?」
「うん…」

義勇はいつもどこか不安げで寂しそうな顔をしていた水野の顔を思い出していた。
義勇のは別に自分が能動的にした犯罪とか嫌がらせとかではないのだが、それでも錆兎に会うまでは姉に対して申し訳ないことをしたという気持ちを抱えて一人ぼっちでいつも寂しかったな…と、そんな頃の事を思い出すと、自分だって未だにああやって罪悪感と心細さを抱えて生きていたかもしれないのだ。

そう思うと、初めからどこか気が強くて怖い印象があった斎藤や淡路とは違って、錆兎は絶対に譲れはしないが水野には他のことで幸せになって欲しかったなと言うのが正直なところである。

水野の孤独と不安はなんだか本当に他人事とは思えない。

「斉藤さんとかはとにかくとして…誰でも水野さんになっちゃう可能性はあるよね…」
思わず口をついて出る義勇の言葉に炭治郎は
「義勇さんには錆兎が居るから絶対にならないですよ。
他にも俺も善逸も禰豆子も宇髄さんも…みんないますしね」
と、そっとその肩を叩いて、みんなの方へとうながした。








2 件のコメント :

  1. 2ヶ所ほど、修正漏れと人名違いじゃないかなというところがあるので
    「ギルベルトの言葉に」→「錆兎の~」「義勇の言葉に善逸は」→「~に炭治郎は」かと思いますのでご確認ください。<(_ _)>

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    1. ご報告ありがとうございます。
      修正しました😊

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