人魚島殺人事件_39_夢のお化け

リビングへと移動する面々を見送って、錆兎は善逸を振り返った。

「で?なんだって?」
錆兎が聞くと善逸は少し迷い、そして
「夢見たいな話なんだけど……信じてくれる?」
と少し不安げに錆兎を見る。

「当たり前だろう」
錆兎はそれに即答した。

あまりに早い返事に善逸は返って信じられない視線を送るが、そこで錆兎が
「お前と出会ったあのゲームの諸々自体がもうありえないような話だったしな。
その後も命がかかっている事件が続いた中で皆背中を預け合った仲だろう?
何故信じないと思うんだ?」
と、彼らしくまっすぐな視線を向けて断言してくるので、なんだか胸が熱くなってしまう。

そうだ。
自分たちはそういう特別に深い絆で結ばれた友人なのだ。
…と、善逸は自分の後ろ向きさがバカバカしくなる。

「お前は臆病なところがあるが、その分、用心深くて色々な物をよく見ている。
お前の視界は時として仲間の安全を確保する道しるべになる」
再度そんなことまで言ってくれる錆兎に善逸はなんだか嬉しくなりすぎて泣きそうになった。


「で?何を見たんだ?」
錆兎が聞くと、善逸は口を開いた。

「えとね、…錆兎達の部屋から逃げて空き部屋に駆け込んだ時、俺寝ちゃって夢見たって言ったでしょ?」
「ああ、言ったな」
「あの時の夢なんだけどさ、壁にお化けがいてう~う~ってうなってたんだ。
で、そのお化けっていうのがプールに浮かんでた仮面になんだか似てる気がするんだよね」

「ちょっと待て…。それって…もしかして壁にあれがかかってたとかじゃないのか?」

「う~ん…今思えばそうかもしれないけど…。
でも、う~う~ってうなり声がしたのはホントだよ?
ただの仮面なら声なんかしないでしょ?」

「壁って…どっちの壁だ?宇髄の部屋の側か?それとももう一つの空き部屋の側か?」
「えっと…空き部屋…かな?」

「ちょっと一緒に来てくれ」
錆兎は善逸の腕を掴んで二階の寝室へと向かった。
そして善逸が最初に逃げ込んだ空き部屋に入り、明りをつける。

「あれ?ない。やっぱり夢だったのかな…」
空き部屋側の壁には何もない。

それを見た善逸の言葉に、黙って壁を探っていた錆兎は
「いや…」
と、答えた。

「画鋲の跡があるから、元々ここに飾ってあったんだろう。
…ということは…ちょっと隣行くぞ」
と、錆兎はまた善逸の腕を取って、今度はさらに隣の空き部屋へと足を運んだ。

今来た空き部屋とはうってかわってガランと何もない。

「こっち側は…ベッドかクローゼットあたりか」
錆兎はつぶやいて、手袋をするとまずベッドのシーツを調べ、次にクローゼットを開けた。
丹念に中をさぐって、何かを拾い、明るい所でその黒い糸のようなものをかざす。

「…髪の毛?」
不思議そうな目を向ける善逸にうなづくと、錆兎はそれをビニールにしまった。

「ここで調べたもの、見つけたものとかは他には言うなよ」
錆兎は厳しい顔で言って善逸をまた部屋の外にうながす。

最初に消えた斉藤…。
いなくなったのはいつだった?

最後に見たのは着いて最初に皆が集まったリビング。
それから古手川の言葉で部屋を出て行って荷物を置いて部屋に戻った時にはいなかったらしい。
あの時の状況を考えれば犯人はおそらくあの人物だが…しかし何故?

とりあえずいったん自室に戻って濡れた服を着替えると、錆兎は善逸を伴って皆が待つリビングへと戻った。

本当のターゲットは誰で全てが終わったのかこれからも何か起こるのか全くわからない。
警察がくればおそらく犯人が確定するまでは拘束される事になるかもしれない。
しかし警察が来たからと言って確実に安全が確保されるという保証もない気がする。
最悪…義勇と禰豆子だけでも安全な所に逃がしたかったが、こうなっては無理だ。


「炭治郎…」
錆兎が呼ぶと炭治郎が駆け寄ってくる。

「ちょっと手を借りたいんだけど、いいか?」
と、錆兎が言うと、炭治郎は頼られたことが嬉しいのか
「もちろんだっ!何でも言ってくれっ!!」
と、笑顔で思い切り頷いた。

「ちょっとな、信頼できる辺りに連絡係を頼みたい」
と、さらに錆兎が耳打ちすると炭治郎はもう本当に満面の笑顔でついてくる。

そうして二人して少し他から距離を取ると、錆兎は続けた。

「俺はこれから多分色々に奔走することになるから、お前はこれからいうことを覚えておいて義勇や禰豆子、善逸にも伝えた上で、全体を気を付けてやってくれ。
特に義勇は伝えて頷いても今一つわかってないことがあるからな。
ということで…これから絶対に俺達以外の人間と少人数にはなるな。
不用意にあちこちを触るのも厳禁。
飲食物は俺が毒味するから、それ以外の物は一切口をつけるな。誰に勧められてもだ。
いいか?わかったか?」
錆兎の言葉を炭治郎はモゴモゴと繰り返し、咀嚼する。

「よしっ!
俺と錆兎、義勇さん、禰豆子、善逸、宇髄さん以外とは少人数にならない。
あちこち触らない触らせない。
飲食物は錆兎が良いと言った物だけ。
…ということだな?」

「ああ、そうだ。
本当はこういう状況で義勇から離れたくはないんだが、離れて行動しないと余計に危険になるから、他もそうだがくれぐれも義勇を頼む」
「任せてくれっ!」

使命感に燃えやすい長子…というのもあるが、義勇に対しては何か弟オーラに刺激されるところがあるのか特別に思い入れを持っているようで、炭治郎は力強く胸を叩いて請け負った。








2 件のコメント :

  1. 修正漏れ&誤変換報告です。「ロヴィーノの腕を取って」→「善逸の腕を…」あと最後の方の「員食物は錆兎が良いと言った物だけ」←飲食物が不思議な変換されてます....(;´Д`)ご確認お願いします。

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    1. 毎回誤字脱字チェックとっても助かります✨
      いつもありがとうございます🙏
      今回も無事修正できました😄

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