人魚島殺人事件_40_孤独な夢の終わり1

「全く!下らない事でせっかくの優雅な読書タイムを台無しにするなんて」
不機嫌な顔の古手川。
淡路の死よりも自分の時間を邪魔された方が重要ならしい。

「そういう言い方ないだろう。人が一人死んでいるんだぞ?」
とその言葉に憤るのは正義感の強い炭治郎。
しかしその言葉も小手川の心を動かすことはない。

「そう!死んでるんだ。今更慌てても仕方なかろう?
淡路の馬鹿が!かなづちのくせにプールわきプラプラして溺死とははた迷惑なっ」

「あなたは…!自分で呼んで来てもらった相手なんだろうっ?!」
「知るかっ!勝手に来たがったんだっ、あいつらはっ!
連れてきてやったのに事故死だか自殺だか知らんがほんっきで迷惑だっ!」

炭治郎と古手川の言い争いをハラハラした目で遠目にする善逸。

「まいったな…なんで死ぬのに縫いたての服着ていっちゃうかな…。
事故にしても自殺にしても気の毒ではあるけど…何も他人の物着ていかなくても…」
松坂も淡路とはそれほど親しくなかったのもあって、イライラと言う。

「これ…やっぱり撮影中止?」
高井も気持ちは淡路以外の方へ向いているようだ。

「事故死なら…続行できないかな?」
と困ったように言う高井の言葉に
「ん~、警察次第かも…」
と松坂が応える。

「一応…どうせ警察くるまで暇だし、ここに置いてある材料で出来る分だけでも服縫っちゃおうか?」
松坂の言葉にそのままじっとしているのも落ち着かないらしい綾瀬も賛成して、二人でミシンをかけ始めた。

「なんか…誰も淡路さんの事気にしてないんだね…」
ボソボソっと俯き加減に善逸が言った。

「あ~…仲良かった斉藤さんとかは行方不明だしな。
でもほら、水野なんかは青くなってるし、平井が慰めに行ったっぽいよ?」
孤独な人間というのに感情移入してしまってなんとなく沈む善逸に炭治郎は少し離れたところに立つ水野を指差した。


斉藤に継いで淡路もいなくなった…。
昨日の夜に空想した事が現実になった事に、水野は喜びよりも恐怖を感じた。

まさか…本当に自分の思いが現実となって人間を殺したとかじゃ…そんなありえない馬鹿馬鹿しい想像が脳裏をしめる。
そこでまた恐ろしくなって成田に目をやった。

別に自分に注意を向けている様子はない。
昨日とはうってかわった穏やかな様子で別所と話をしていた。
彼が糾弾の目で見ていないという事は自分のせいではないのだ、と、水野はホッとする。

緊張の連続でなんだか疲れた…。
淡路のように何も感じなくなってしまえば楽なのでは…と、一瞬思って、すぐゾッとしてそれを打ち消す。
今のところ自分がこうなれば…と考えた様に人がいなくなっている…。
そんな事を考えたら次は自分が……。


「水野さん…」
不意の隣で声がして、水野はビクっと身をすくめた。

「あ…平井…さん。」
「大丈夫?真っ青だけど。
まあ…友達がああなって顔色良かったらどうかしてるとは思うけどね」

一応心配して声をかけてくれたのだろうが、はっきりした物言いをする平井はどうも苦手だ。

水野はそれでも
「ええ、ありがとう。大丈夫」
と、曖昧な笑みを浮かべた。

「一人つらければ…宇髄君にでもくっついてれば?
とりあえず家主だし一番色々な意味で便利そうだしね」
平井の言葉に水野は複雑な表情でまた笑みを浮かべる。

「えと…私あまり親しくないから…」
「なら余計でしょ。飲み物でも持って行けば?
ちょうど他は服の事であっち固まっているし。
私もそっち行こうと思っているんだけど、彼一人暇そうだしね。
それにあなたみたいにおどおどしてられると見ててすごくうっとおしい」

平井の言葉に水野は涙目になった。
確かに自分はおどおどしてるかもしれないが、なんでこの女はわざわざそこまで言いにくるんだろう。

水野はとにかくその場を離れたくて、テーブルの所に置いてあったリンゴジュースをひったくるように取ると、そのまま他と離れて立っている宇髄の所に駆け出して行った。


「あ…宇髄君」
一生分くらいの勇気を振り絞って声をかけた水野に、宇髄は若干警戒をしながらも、それを悟らせないように笑顔で返事をする。

「どうしました?水野さん」
応えが返ってくる事に少しホッとしたように水野は俯いたまま

「なんていうか…私一人になっちゃって。
こんなことがあって自分だけって不安なんですけど、かといって人混み苦手で…」
と、一気に言ってまた言葉に詰まった。
それから少し気まずそうに笑みを浮かべる。

ああ、そういうことか…と宇髄が納得して見回せば、確かに綾瀬や平井などの裁縫組とそれを手伝う松坂、馬鹿様と言い争っている成田とその仲裁をしている高田、錆兎は禰豆子や炭治郎と共に義勇をがっちりガードしていて、善逸もそちら。
ということで、どこにも入っていけそうなあたりがない。

まあ自分もホストとして色々使用人に指示をしたりして、暇なわけではないのだが…。

しかし錆兎に対して水野を引き受ける宣言をしていることもあり、ここで断ってあちらに向かわれても困る。

なので
「まあ、確かに」
と言いつつ椅子を薦めた。

「ありがとう。」
と、受け入れられた事にホッとしたように笑顔を浮かべる水野。

「勇気だして声かけて良かった」
と不器用に笑うと年上とは思えないほど幼げで可愛い。

なるほど。
割り切る性分の自分と違って気のいい会長様がこれをきっぱり突き放せないのはわかる気がした。

「これ…良かったら」
と、そんな水野が差し出してくれたのはリンゴジュース。
内気で気が利くとは言えない彼女の精いっぱいなのだろうそれを断るのはさすがに心苦しいのだが…

「ごめんな。
俺りんごアレルギーで。松坂が食事ん時に言ってたアレルギー、実はあれリンゴなんだよ」
宇髄はそう言いつつ、自分のミネラルウォータを手に取って、
「でもまあせっかくだから、お近づきに乾杯でもしますか」
と、それをかざすと、水野は、そうだね、と笑みを浮かべて自分が持ってきたりんごジュースの瓶を開けるとグラスに注ぐ。

そしてそれをかかげて、チンと宇髄のグラスに軽くぶつけた。
そしてそのまま一口口に含む。

しかしゴクリと飲んだ瞬間…赤い液体が水野の小さな唇からこぼれ落ちた。









2 件のコメント :

  1. 平井さんずっと女性だと思ってたんですがもしやオネェ系男子だったのでしょうか...^^;→「なんでこの男は」

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    1. ひぃぃ…オカマにっ!!💦💦
      『この女』の間違いです💦
      ご報告ありがとうございます。修正しました🙏

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