人魚島殺人事件_33_安心安全綾瀬さん

──綾瀬さん、お手数おかけしましてすみません。
と、足を運んできてくれた綾瀬にまず錆兎が頭をさげる。

それに綾瀬はにこやかに
──ううん。全然っ。細かい作業が続いてたから休憩には良いくらいよ
とキッチンから持参した焼き菓子の籠を揺らしながら言う。

そして
──メイドさんがすぐお茶を持ってきてくれるそうです。
とその後ろで炭治郎がそう付け加えた。

なるほど。
話をするならお茶とお菓子でもあった方が緊張しやすい水野でもリラックスできるかもしれない。
炭治郎はそのあたりまで気が回るほうではないから、これはおそらく綾瀬の気遣いなのだろう。

「綾瀬さん、色々気遣い感謝します。ありがとう」
と錆兎が言うと、案の定そうだったらしく綾瀬は
「なんのなんのっ。
私らだってモデルさん達には良い状態で服を着てもらって最高の図を撮りたいからねっ」
とぱちんと片目をつぶって見せた。


そうしてメイドがお茶を持ってきたところで、水野と義勇、綾瀬を残して全員部屋から退出。

錆兎が傍から居なくなる…その時点で普通なら人見知りの義勇は拒否するところなのだが、綾瀬がいることでかろうじてその場に残ることを了承した。

彼女はなんというか、義勇の気持ちを汲んでくれる感がある。
まだ出会ってから間がないのに何故か色々を察して気遣ってくれるのだ。
それどころか義勇が実は男で同性の錆兎のことが好きなのだと知っても驚いた顔一つしないのがすごいと思う。

そんな綾瀬が居れば自分のことをあまり好きではないであろう水野との話し合いも大丈夫な気がした。

実際綾瀬は義勇と水野の双方がリラックスできるようにと、
「お願いしたら即こんなにすごい種類の焼き菓子が出てくるって、さすが宇髄財閥の家は違うねぇ」
などと言いながらお茶をいれてくれ、カップとソーサーをそれぞれの前に置きながら
「義勇ちゃんも水野さんもあまり緊張しないで、気楽にお話しようか。
作品を作る私達と違って二人とも善意のお手伝いさんだからね。
逆に私達に出来ることはするつもりだから、何かあったら気軽に声かけてね?」
などと、双方を尊重する意思を示してくれる。

そして最終的に
「ということで、義勇ちゃんの体調が宜しくないみたいだから鱗滝君達が水野さんと二人きりにするのは気になるってことで私が呼ばれたんだけど、水野さんが義勇ちゃん以外に聞かれたくない話ってことなら、私、イヤホンで音楽でも聴いてるけど、どうする?」
と、水野を振り返って尋ねた。

義勇と二人で話したいということだったのでてっきりそうしてくれと言うかと思ったら、水野は意外にも
「…出来れば…綾瀬さんにも聞いてほしいんだけど…」
と言う。

「あ…わかる…。
なんか綾瀬さんて居ると安心しますよね…」
と、そこで義勇が思わず口をはさむと、水野はなんだか嬉しそうにうんうんと頷いた。

綾瀬はそんな二人に少し意外そうに眼をまるくしたあと、
「そう?そう言ってくれると嬉しいな。ありがとう。
じゃ、お茶でも飲みながらまったり話をしようか」
と、ふわりと笑った。








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