人魚島殺人事件_32_対談希望

「これは…落ちないな。
義勇に似合っていたのにもったいない」

とんとんと濡らした布で汚れの部分を叩く錆兎。
その間に義勇自身は禰豆子に手伝ってもらって別のドレスに着替えている。

「う~ん…宇髄さんはダメになっても構わないと言うことでしたけど、気に入ってるならメイドさんにお願いしてクリーニングに出して頂いたらどうでしょう?」

と言いつつ、禰豆子は義勇が自分でやると縦結びになってしまうリボンを綺麗に蝶結びに結んでやっている。
このあたりは大家族の長女らしく手慣れたものだ。

「あ、それがいいですよね。
俺、お願いしてきますっ!」
と、フットワークの軽い炭治郎は汚れたワンピースを手にドアの方へ。

その時、部屋のドアが小さくノックされた。

「あ、私が出ます」
と、禰豆子がいったんぎゆうから離れてドアに駈け寄る。

そしてドアを開けた瞬間、
「…!」
ドアの向こうに立っている人物を見て硬直した。

「何でしょう?」
と、明らか硬い禰豆子の声に炭治郎が即、暴走しないように今回やや感情的になりやすくなっている妹の腕を取って部屋の奥の方へ。


その炭治郎の対応で錆兎も気づいたようだ。
大急ぎで部屋着に着替えさせた義勇をそのまま炭治郎達に預けて一人水野が待つドア付近へと足を運ぶ。

宇髄が引き受けてくれると言っていたので呼び出してしまおうか…と思いつつも、そこまでではない軽い要件かもしれないのでとりあえず

「水野さん、どうしました?」
と声をかけてみると、なんと水野が訪ねてきたのは自分ではなかったらしい。

「あの…私、冨岡さんにお話が…」
と、片手の拳で口元を隠す、いかにも内気な彼女そうな仕草でおずおずとそう申し出てきた。

「は?義勇に?」
と、そこで錆兎は初めて彼女を警戒する。

普通の高校生ならそこで即拒否していただろう。
しかし彼は曲がりなりにも全国一を誇る名門進学校の元生徒会長で、政財界の大物が取り合いをするほどのスーパー高校生だった。
多種多様な情報から結論を引き出す術を身に着けている。

「話すのはここで良いですか?」
と聞く錆兎に驚きの表情を見せる竈門兄妹。

しかしさらに彼らを驚かせたのは水野の
「…いえ…出来れば二人きりがいいんですけど…」
という言葉だ。

義勇と?二人きりで?何を話したいと??

「え~っと…二人きり…じゃないとだめですか?
男がいては嫌だと言うなら…」

戸惑いながらもそれなら禰豆子を残すのが正しいのか?と思いつつ言う錆兎を水野がチラチラと見上げる。

そこで長男が察した。


「俺が残ります。
禰豆子ほどの確執はないし、錆兎は義勇さんのことだとあまり冷静ではないし…。
それとも綾瀬さんあたりを呼んできてお願いしますか?」

禰豆子はすでに物を言いたくて開きかけた口を兄に塞がれてモゴモゴもがいていて、錆兎はそれを見て確かに男じゃダメだったとしても禰豆子はもっとダメだったな…と、自分が意外に冷静に判断で来ていないことを実感した。

「…水野さん、炭治郎か綾瀬さんならどちらが良いです?」
と、そんな禰豆子に苦笑しつつも錆兎が聞く。

穏やかな声音で問われるそれは、話をするのは了承するが、飽くまで二人きりはダメだと言う錆兎の意思表示だと言うのはさすがにわかったのだろう。

「…じゃあ…綾瀬さんで……」
と、おずおずと指先を合わせながら俯き加減に小さな声で言う。

「じゃ、俺お願いしてきますっ!」
とそれを聞いてフットワークの軽い長男が妹を念のためにと錆兎に預けて駆けだしていった。

──余計な事を言うなよ?!
と預け際に兄に言われて不満げな目で自分を見上げてくる禰豆子に気づいて錆兎はまた苦笑して

(…水野さん、たぶんもう義勇に悪意とか敵意は持っていない気がする。
さっきの炭治郎の言葉で敵対心が消えて怯えが残ったというか……
まあ俺の直感みたいなものだが、俺も普段は敵意を向けられ慣れているから何となくそういうのはわかるんだ)
と言うと、禰豆子は水野に対する怒りよりも錆兎に対する同情のようなものが勝ったらしい。

(…嫌な事言わせてごめんなさい。
でも錆兎さんが良い人だって言うのは私も兄もわかってますからっ!
私も兄も…きっと善逸さんも宇髄さんも、みんなみんな錆兎さんのこと大好きですよっ!)
と泣きそうな顔で言ってくる。

(ああ、それも知ってる。でもありがとな)

小声でそんなやりとりをする間に禰豆子の怒りも霧散したようで、そのうち炭治郎が綾瀬を伴って戻ってきた。








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