人魚島殺人事件_35_お坊ちゃまの孤独

──さっきは良いように使って悪かったな

錆兎達が私室へ引っ込んでから、宇髄は改めて使用人に食後のお茶をいれさせて、善逸を促してそれを手に部屋の隅にある小テーブルへと移動した。

そこでそう始める彼に善逸は少し悩んで、その言葉がさきほどの水野とのやりとりのことだと気づく。

「いや別に良いんだけど…。
俺が言うより宇随さんが直接言った方が手っ取り早くなかった?」
と、あれを何故自分に言わせたのかを聞いてみると、宇髄は苦笑。

「あ~、そのことか。
簡単なことだ。
最初に小手川に帰れって言われて斉藤が怒った。
これは普通に気が強い人間の反応だ。
あとの二人は泣きそうになった。
これは二通り考えられる。
一つは小手川に思い入れが強すぎてショックを受けている。
一つは単純に気が弱くて動揺している。
その後の俺の言葉で二人ともホッとしているからおそらく正解は後者。
よって彼女は非常に気が弱い人間と推測できる。
だから立場的強者である俺からいきなり何か声をかけられた事にすごく緊張してたと、まあそういう事だ。
あのまま俺が番号教えろと言っても怯えて教えたと思うけどな。
そのかわり今後こちらから聞いた事以外の、向こうからの能動的協力というのが望めなくなる。
彼女は何かあった時に自分だけで抱え込むのが怖い人間だから、警戒心を解いてやれば自分の方から勝手に情報を与えてくれる非常に便利なタイプの人間なんだよ。
だから…緊張しないようにへりくだった態度で目下のように接してやるのが得策。
その人員として、年下で人が良さそうなお前が適任ってこった」

正直、驚きしかない。
もう人種が違う。
錆兎に対してもそう思っていたが、上に立つように生まれついて育てられた人種と言うのはもう自分達と同じ高校生ではないのだ、と、しみじみ思った。

「宇髄さんて…あったまいいねぇぇ」
とため息交じりに言えば、宇髄は一瞬驚いたように目を丸くして、そして笑う。

「お前さ、レアな人種だよな」

いきなりそう言われて、善逸はきょとんと首をかしげた。

「レア?俺??
いやいや、俺はどこをどう割っても何の特徴も取り得もない極々一般的な男子高校生でしょうがっ!」

「あ~、能力って言えばな、そうなんだけど。
会長様以外でそこまで俺に対して警戒も緊張もしねえ奴、滅多にいねえよ。
普通宇髄財閥の跡取り様と思えば、もうちっと敬わねえととか機嫌取っとかねえととか、色々あんだろ」

「あっ…すみませんっ!別に軽んじてるとかじゃなくて…っ」

当たり前に普通に会話をしていたが、そう言われれば善逸は錆兎や義勇と違って呼ばれてさえいない、ついでに来たような居候だ。
家主様にもう少し気を使うべきだったかっ!と焦るが、宇髄はそれにヒラヒラと手を振りながら言った。

「いんや、プライベートで周りに気ぃ使われても面倒だろっ。
だからお前くらい力抜けてる方が良いんだけどな。
ジジイの孫だからってみんなビビるからな。
ほんと、海陽元役員組とお前らと綾太郎くらいだぜ?
宇髄財閥の跡取り様じゃなく、ただのイケメン男子高校生として接してくんの」

「そこ、イケメン要らなくないですかっ?!
イケメンだけどっ!確かにイケメンだけどさっ!!」
と善逸がその軽口に反応すると、宇髄は──ひがむな、ひがむな、と、笑う。

冗談めかしているものの、なんだか嬉しそうな宇髄に、良い家柄に生まれついて羨ましいと思ったが意外にそれで寂しい思いをしているのかもしれない、と、善逸は思った。









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