聖夜ぷえ
スコットは幼児が嫌いだ。 何故?と聞かれれば、痛々しいから…という答えが浮かぶあたりが、そもそもが幼児に対する認識が間違っていると言わざるを得ない。
部屋からかすかに薔薇の香りと、ふんわり漂う紅茶の良い匂い。 ベッドはふかふかで起きちゃうのが惜しいけど、マスターが適温になるように絶妙に調節してくれたミルクティが冷めちゃうのはもったいないな…
「座れ」 と命じると、マシューは 「はい」 と答えると行儀よく足を揃えて椅子に座った。
できればドールが動きを止めると知らせないまま、ドールを自然な形でアーサーから離せればいいのだが……。 そんな事を考えていると、ふと領内に魔法の気配がした。
先日の事件以来、他人は信用しない事にした。 急ごしらえで作った割には魔法の望遠鏡は絶好調で、塔の最上階のアーサーの部屋から大陸の方へと目を向ければ、ピンポイントで“ねこのみみ亭”が見える。
そうと決まれば善は急げである。 ロヴィーノは先程からずっとルートに張り付いている弟に声をかけた
「な…なんだよ。こんなん変なんだぞ!こんなんおかしいんだぞ!」 アルはパニックになったように叫ぶと、止める間もなくぴゅ~ん!と飛んで行った。
なごやかなピクニックが一転、バトル会場へと変化した。 「ねえ、なんであなたの弟、伸縮自由なの?」 一応警戒はしながらも観戦モードに入ったエリザは好奇心をそそられたらしく、マシューに聞いてくる。
「あ~、もしかして双子の?」 エリザの言葉に、はい、とうなづくマシュー。
「じゃ~ん♪見て見て♪フェリ特製らぶらぶサンド♪」 翌日、ギルベルト、フェリシアーノ、エリザの3人は朝からキッチンへこもってランチボックス作りに励み、アーサー、ルート、ロヴィーノ、マシューを加えた7人で街外れの丘へピクニックへ。
「お前…あの態度なんなんだよ。マシューが可哀想だろ?」 一方部屋に戻ったギルベルトとアーサーの二人。 パタンとドアを閉めるなりとりあえずそうかみつくアーサーをギルベルトがぎゅっと抱きしめて、その肩口に顔をうずめた。
正直、ギルベルトが抱え込んでいるなか、アーサーとの時間を作る自身はロヴィーノにはない。 かといって一人ぼっちのマシューを寂しいままにもしておきたくはない。 そこで少し考えて、そう言えば弟の話をしていたな、と、思い出す。
「あ、僕ご飯中なんです。一緒に食べませんか?」 空気が落ち着いた所で嬉しそうに声をかけるマシュー。
「あの…オランさん?」 「なんじゃ」 「このフード…取ってもいいですか?」 「取るな」 「……はい」
アーサーを助け出して家に連れ帰ってから3日たつ。 今は塔の最上階のアーサー自身の部屋のベッドに寝かせている。 なのに一向に目を覚ます気配のないアーサーに、さすがのスコットも不安になってきた。
城に着くと人払いをし、アーサーを自分の部屋に運び込む。 そこでアーサーから南の王の香の香りが立ち込める忌々しい長衣をまずはぎ取って、自分の寝まきに着替えさせた
心の中で葛藤がなかったわけではない。 しかし外に出て行くのがこの子のためだと言われれば、幼い頃から否応なしにカークランドを背負わざるを得なかったスコットは納得できる気がした。
「戻るぞ、ランスロット!」 アーサーを抱えたままスコットは青毛の愛馬に飛び乗った。
そうしてインディが気を失ったままの元子供を目の前に放心していると、いきなり壁が吹っ飛ばされた。 反射的に元子供をかばうが、幸い四方を布で囲まれている部屋のため、布がガードしてくれたようだ。
「まあ…残念やけんど、しかたなか」 一行を見送ってインディはゆったりと長衣のすそを翻して、一部崩れた王宮内に戻った。