今は塔の最上階のアーサー自身の部屋のベッドに寝かせている。
なのに一向に目を覚ます気配のないアーサーに、さすがのスコットも不安になってきた。
調べたところ、特に薬の影響とかもないようなので、単に精神的なモノなのだろう。
ただひたすらにうなされて泣いて怯えて助けを呼ぶ、そんな状態が続いてお手上げ状態だった所に、ウィリアムが今のアーサーの連れ達をつれて戻ってきた。
会ったら絶対に髭を全部むしり取ってやろうと思っていたフランシスにも構わず、スコットはギルベルトの前に立った。
言ってやりたい事はたくさんあった。
もう思い切りののしってやりたいし、なじってやりたいし、できれば死なない程度に死んだ方がましだと思うくらいイタぶってやりたい。
それでも…泣いて怯えて助けを呼び続けるのに目覚めない可愛いアーサーを目覚めさせる事ができるのはこの男しかいないのかもしれない。
そう思って諦めた。
「3日だ。アーサーは連れ帰って3日間、うなされてるのに目覚めない。
貴様のしてきた事は切り刻んで豚の餌にするくらいじゃ足りないくらいは腹がたつが、貴様のような奴でもアーサーを救えるのなら勘弁してやる。
半日猶予をやろう。
半日の間にアーサーを目覚めさせる事ができれば、宝玉が集まるまでは側にいる事を許してやる。
が、目覚めさせられなければ貴様の命はないと思え」
本当はまかせたくない。二人きりにもさせたくない。遠くへ連れて行かせたくもない。
それでもそれは仕方のない事なのだ。
カークランド宗家の当主として育てられたスコットは、誰よりも諦めると言う事を知っていた。
「ダンケっ!絶対起こして見せるから、待っててくれっ!」
嬉しそうに1階から18階まで階段を駆け上がって行くギルベルトの後ろ姿を見送って、スコットは小さく息を吐き出した。
本当に…長男なんて報われない運命なのだ…。
翌朝…ああ、もう上がって行ったのが前日の午前中なのに朝まで二人きりで何をしていたなどということは腹がたつので考えない事にする。
どこぞの馬の骨に手を引かれて降りてきたアーサーはなんだか幸せそうだった。
そして、本当に初めてなんじゃないだろうか、と思うくらい珍しく、
「兄さん…」
と自分から声をかけてきた。
「なんだ?」
とここでもう少し優しい口調で言えればいいのだろうが、目が覚めているアーサーを前にするとどうしてもいつもの習慣でしかめつらになってしまう。
普段ならここで、やっぱりいいですと逃げ出すところなのだが、今回は少し緊張しつつも逃げずに続けた。
「今回は…お世話になりました」
助けに行った事を言っているのだろうが、なんだか愛娘が嫁にいく時の言葉のようだ。
ダメだ…これは泣くかもしれない…。
「ふん。お前の代で宝玉を完成させるのが守人としてのカークランド家の悲願だからな。
必要なことがあればウィルに言えば協力してやるから、ちゃっちゃと欠片を集めてこい」
クルリと後ろを振り返りながら、なんとか一息でそう言い切ると、スコットは袋を取り出して、やはり後ろを向いたままグイっとアーサーに押し付けた。
「…?なんですか?」
「餞別だ。持って行け」
そう言うだけ言うと、スコットは塔の中に戻って行く。
中には短剣とお札。
…特別なまじないをかけたキレ味抜群の短剣と、塔まで一瞬で戻れる札だ。
…その馬の骨に飽きたらそいつで刺して戻ってこい。
「うあ~えげつねえ!勘弁してくれっ」
「まあ…チビちゃんに手出してこれくらいで済んだんだから上等じゃない?」
なんとか保護者の公認も取り付けたギルベルト。
風の欠片も手に入れて、終わりよければすべてよし。
こうして7人はあと二つの欠片をさがすため、またウィルの絨毯で大陸へと戻って行ったのだった。
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