と命じると、マシューは
「はい」
と答えると行儀よく足を揃えて椅子に座った。
ふっくらした淡いピンクの頬に大きな瞳。
まさに幼児の愛らしさを体現したようなその容姿で、しかし幼児らしい無邪気さも見せずきちんとかしこまっているその様子は、最愛の弟の幼児期をわずかに彷彿させた。
じ~っとスコットの言葉を待つつぶらな瞳。
…言いにくい……自分がこのドールに命じようとしている事は、自分への死刑宣告書にサインしろと言うような事だ。
「僕…死ぬんですね?」
スコットが言いあぐねていると、ドールの方から口を開いた。
「なぜそう思う?」
肯定もしかねて質問で返すスコットに、ドールはなんとなくわかります、と、ふわりと笑みを浮かべた。
「優しいなぁって…。」
「…?」
「僕のマスターはとても優しい人で…僕は生まれた時から優しさに包まれて育てられて…マスターに似たアーサーさんも優しくて…そのお兄さんも人間でもない僕に死を告げるのにも気を使ってくれるくらい優しい人で……
僕は人間じゃないけど、たぶん人間よりもずっとずっと優しさを与えられて生きてきて…幸せな一生なんだと思います」
「俺は優しくなんかないぞ」
そう、放置すれば生きられる命を一族のために摘もうとしている自分が優しいはずはない。
そんなスコットの心の内を読んだかのように、ドールはまた微笑んだ。
「僕、マスターを亡くした後も長く生き過ぎて…最近自分がなんのために生きてるのか本当にわからなくなってて…死ねない事に疲れちゃってるんです。
だから……最後に生を終える意味を下さる事に感謝します。
しかも…それが大好きな人のためならなおさら嬉しいです」
たかがドールを壊すだけだ…と思いつつも苛立つスコット。
「…諦めの良い幼児なんてくそくらえだ!気味が悪い」
思わず言ってしまってから、なんで自分はこういう言い方しかできないのだろうと思うが、ドールの方は気にしてないらしく、すみません、と、フフッと笑った。
「俺は弟を傷つけたくはない」
いくら話を反らしても結果は変わらない。
スコットがそう始めると、ドールは
「僕もです」
と、にっこりうなづく。
世の中…嫌でもしなくてはならない事はある。自分はカークランド家の当主だ。
スコットはドールにやるべき事を説明し始めた。
「とりあえず…手術と一緒だ。
水の石がなくなれば当たり前に傷はできるし、それが癒えるまでは動かない方がいいのは当然の事だ」
全員が待つ居間へと足を運んだスコットは、水の石を摘出後、しばらくマシューをカークランドの方で預かる旨を宣言した。
当然不満げな表情を浮かべるロヴィーノに、マシューが
「僕は研究補佐型ドールなので、こちらで少し学ばせて頂きたいのもあるんです」
と言葉を添える。
「研究…終わったら戻ってくるんだろ?」
とさらに言うロヴィーノに
「ちょっと長くなりそうですけどね。
さすがにカークランド本家は勉強したい事いっぱいで」
と笑顔を向けるマシュー。
本人が勉強したいと言う物をそれ以上無理に引き止める事もできず、ロヴィーノは不承不承了承した。
「納得したなら手術に入る。
一応こいつは生まれてこの方、水の石のせいで痛みと言う物を体感したことがないから、いきなり術後の傷の痛みを体感したら神経に異常をきたす可能性が皆無ではない。
だから術後はある程度身体の傷が癒えるまでは魔法で寝かせて置くから、貴様達は石を受け取ったら即行大陸へ戻って、さっさと土の石を探して宝玉を完成させろ」
淡々と言う魔術師一族の宗家の長の言葉を疑うモノは誰もいない。
こうして再度マシューを伴って消えるスコット。
次に戻ってきた時には水の石の半分を手にしている。
それを受け取ってアルの体内にあった石と合わせると、石は溶け合って綺麗な球体の水晶へと戻って行った。
水晶の中をクルクルと回る水は涙の形…
「マシュー…戻ってくるよな…」
水晶球を両手でそっと胸元に抱きしめて、ロヴィーノは誰にともなくそう語りかけた。
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