続聖夜の贈り物_9章7

なごやかなピクニックが一転、バトル会場へと変化した。

「ねえ、なんであなたの弟、伸縮自由なの?」
一応警戒はしながらも観戦モードに入ったエリザは好奇心をそそられたらしく、マシューに聞いてくる。


「えっと…アルは元々は戦闘タイプのマジックドールなので、普段は子供の姿でも必要な時は戦えるように、コーラ飲むとああいう戦闘形態になるんです」
「へ~、よくできてのねぇ…」
ぴゅ~っと感心したように口笛を吹くエリザ。

「ちなみに…あなたも作れるの?」
と、エリザは続いて今度はアーサーに振るが、アーサーは無理だ、と即答した。

おそらくマシュー達のマスターは自分などよりよほど才能のある魔術師だったのだろう。
魔法工学は得意な方だがここまで精密なマジックドールは絶対に作れない。
せいぜいゴーレムが良いところだ。

というか…こんな精密なマジックドールを作れる技術があったなど、カークランドの書庫に連なるどの本にも書いてなかった。

今まで当たり前に受け入れてきたが、そう考えるとマシューやその弟アルの存在は随分と不思議だ。

そもそも…そんな優秀な魔術師が何故途中で宝玉の欠片集めを投げ出して森の奥で隠遁生活を送る事にしたのだろうか……
考えれば考えるほどわからない。



そんな事を考えている傍らでアルとギルベルトの戦闘は続いている。
とりあえず…アルの飛ばしてくる弾丸は長剣を振り回しているだけで、長剣の高熱の炎が溶かしてくれる。
ただ、不思議な事に何度か長剣がアルに傷を追わせているはずなのに、傷を負わせる端からふさがって行くのだ。

これキリがねえなぁ…
とギルベルトは心の中で舌打ちをする。

相棒…どうするよ?

なんとなく最近よくそうしているように、今は紅の長剣と化している炎の石に問いかけて見ると、炎の石は応えるように輝き、その輝きに照らされたアルの中で一か所、光らない場所が浮かび上がった。

なんだ?ここ攻撃しろってか?
と再度語りかけると、肯定するような意志がギルベルトの中に流れ込んでくる。

よっし、やってみるか~。
ギルベルトは炎の石が示したアルの背中、葉の形に浮かび上がった場所に向けて長剣を投げつけた。

飛んでいった長剣がアルの背中にあたると、触れた瞬間に何か輝くモノに長剣は弾かれてギルベルトの手に戻り、輝く何かが同じくギルベルトの手元に飛んでくる。

それを確認するのは後回しにして、ギルベルトが再び長剣を構えてアルに向かおうとすると、いつのまに近づいたのか、アーサーがかばうように立ちふさがる。

「もう勝負はついたから。やめてくれ」
そう言うアーサーの向こうではマシューが膝をついているアルの一房跳ねた金色の毛をギュっとつかみ、それと同時にアルはシュルシュルとちぢんで元の子供に戻った。
どうやらその一房の跳ねた毛をつかむと元に戻るらしい。

「何するんだいっ、マシュー!」
小さくなったアルがプンプン怒って言うのに、マシューは腕を組んでやはり少し怒った口調で答える。

「いい加減にしなよ、アルっ!
君ときたらいつもいつもいつも自分勝手で一人で突っ走って、だいたいいきなり連れに喧嘩ふっかけられたマスターの迷惑とか考えた事あるの?
少しは協調性ってモノを学んだらどうなのさっ…ほんとに君はいつも我儘で他に迷惑かけて………」
長々と続くマシューのお説教。
だんだんアルが涙目になっていく。
こうしているとなるほどお兄ちゃんらしい。

「まあその辺にしといてやんなさい。ほら、手当てしてあげるからあなたこっちにいらっしゃいよ」
さすがに気の毒になって来たのか、エリザが間に入って手まねきをする。

「え?怪我??」
その時初めて背中に薄く出来た傷に気がついたらしい。
アルとマシューはぽか~んと呆けた。

「なによ、いくらあなた達だって切られたら傷くらいできるだろうでしょうよ」
当たり前に言うエリザに二人揃ってフルフルと首を横に振る。
マシューはオロオロしたままだ。


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