一方部屋に戻ったギルベルトとアーサーの二人。
パタンとドアを閉めるなりとりあえずそうかみつくアーサーをギルベルトがぎゅっと抱きしめて、その肩口に顔をうずめた。
「ギルベルト?」
自分はよくやるが、逆はあまりないその行動に少し驚いて、少しためらいがちにギルベルトの背中に腕を回すアーサー。
不思議そうに首をかしげると、肩のあたりからくぐもった声が聞こえた。
「…ちっとな、怖くなった…。」
「へ?…マシューがか?」
驚いて聞くアーサーにうなづくギルベルト。
抱きしめられた腕にさらに力がこもる。
「あいつも一度大事なモンなくして今に至ってるしな。
今ようやく見つけた大事なモンなくしたくない、抱え込みたいって思ってんじゃねえかなって。
肝心のお前は戻って即マシューんとこ行ってあいつの事めちゃくちゃ大事なモンみたいに抱きしめてるし…」
「……もしかして……やきもちか?」
「…我ながら大人げないしみっともねえって思うけどな」
「お前みたいな大人でもそんなこと思うんだな…」
ぐりぐりと肩口に頭をすりよせるギルベルトに思わず笑うアーサー。
「ええ大人やからだろ。お子様の可愛らしさにはかなわねえし?
もうな、俺様、お前が子供産めない男でホント良かったと思うわ。
自分の子でもやきもち妬く自信ある」
「お前…変」
「変じゃねえよ。
俺様、物心ついた時には親がいなくて1人だったしな。
途中でルッツ引き取ったけど城帰っちまって……
あいつにはもうちゃんと別の家族がいるから、アルトに会うまで結構孤独な人間やってたんだぜ?
帰り待つ家族もいねえし、もし俺様が戦場で死んでもだれも困らねえ。
そんな事思って戦場転々としてたんだ。
それがアルト拾って、朝起きたら家族いて飯作ったら美味そうに食ってくれて…リビング覗いたらちゃんと家族居てってそんな日常を満喫しちまったからな。
ず~っと欲しいって思ってて手に入らなかったもんが、ようやく手にはいったんだ。
そりゃあもう手放せないだろ。
なくしてまた一人になるのはちょっと勘弁だ。
もちろんもうアルトが嫌だっていっても他の奴がアルトの事が欲しいって言っても、それこそ相手殺してでも絶対に手離す気ねえんだけど、それでもアルトの気が他に行くのは良い気がしねえ」
絶対に手放さないと言うのは何度となく言われたが話半分に聞いていたので、皆から好かれていて皆から大事に思われているはずのギルベルトの告白に少し驚くアーサー。
「…引いたか?」
無言のアーサーに、少し肩口から顔を放してその顔を覗き込むように聞くギルベルト。
しかしその顔は引いて青くなるというよりは真っ赤で……
「いつも思うんだけどな…普通引くようなことがアルトの羞恥の琴線にふれるんだな…」
前もこんな事あったなと思いつつ言うギルベルトに、
「見るなっばかぁ!」
とアーサーは真っ赤な顔を隠すように両手で覆う
「だってしかたないだろっ!そんな事言われ慣れてないし…。そもそも俺よりお前の方が離れていける立場じゃないかっ。生活力あるし、家事できるから一人でやっていけるし…今回の事だって俺はお前としかできなくなったけど、お前の方はできるわけだし……」
最後の方はもにょもにょと小声になっていく。
「ん~、でも稼いでも飯つくっても喜んでくれる相手もいないセルフサービスだとあんま楽しくねえんだよな。
俺様の方がしたくてしてる事だし、アルトはなんにもして欲しいとか言わねえし…」
「…だって…言えないだろ…これ以上…。」
「なんでだよ?言えよ。恋人だろ?」
「うああぁ!もう何恥ずかしいこと言ってんだ、ばかぁ!!」
真っ赤になってぽかぽか殴るアーサーに、対して痛くもないがアイタタと言いながらギルベルトは苦笑した。
「いや、恥ずかしいことじゃねえだろ。
なんでもいいからよ。一緒にしたいこととか、欲しいもんとか。
俺様がしてやりたい事だけやなくて、アルトがして欲しい事してやりてえし?」
「…したい事?」
「そ、したい事だ」
上目づかいに見あげるアーサーにギルベルトはうなづいた。
う~ん…と考え込むアーサー。
「……ピクニック…」
ぽつりとつぶやく。
「あ~、いいな、それ。ベルにキッチン借りて弁当作って」
「みんなで…かな」
続く言葉にガックリ肩を落とすギルベルト。
身体を繋げようと保護者公認の仲になろうと相変わらずのフラグクラッシャーなところがアーサーのアーサーたる所以だ。
「ま、いっか」
すっかりその気になってピクニックの図を想像したのか楽しげなアーサーに、ギルベルトも笑みを浮かべる。
大陸に来てからあまりゆっくりできる事も楽しめる事もなかったので、丁度いいかもしれない。
皆がいても関係なくベタベタすればいいだけの事だ。
こうしてピクニックに行く事にして、軽食を持ってきてくれたベルに翌日のキッチンの使用許可を取った。
久々にアーサーの好きなエンパナーダを作ってやろう。
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