幼馴染じゃいられない1

「じゃ、また帰りになっ」

義勇の学校の最寄り駅の改札で錆兎は手を振った。
そうして自分は再度電車に飛び乗って自分の学校へと向かう。


これをもう2年以上続けている。
もちろん今後も続けるつもりだ。
だって自分は義勇を守ってやらねばならない。

変態…というのは、出会わない人間は本当に出会わないが、出会う人間というのは何度も出会うらしい。
錆兎は当たり前だが出会ったことはない。
理由は男だから…と言いたいところだが、男でも出会うやつは出会う。

実際錆兎はそれを目の当たりにしてきた。
物心ついた頃から一緒だった幼なじみで…。

幼なじみの名は義勇。
色が白くて目が大きくて、鼻や唇も小さく整ったその顔は日本人形のように可愛らしい。
幼い頃は本当に女の子のようだった。
そんな風に愛らしい容姿をしていたからか、よく見知らぬ人間に連れて行かれそうになっていたので、幼い頃の錆兎はいつも義勇としっかり手を繋いでいた。

いつも一緒。どこでも一緒。
小学校から中学までは一緒で、高校は別。

錆兎は同じ学校へ行くものだとばかり思っていたのだが、義勇がいつのまにか違う高校を受けていた。

そのことに内心結構なショックを受けたわけだが、同時に何故かホッとする自分がいた。
理由は錆兎自身にもわからない。
いや…嘘だ。わかっているかもしれない。

中学に入る少し前…錆兎はとある夢を見て、それからほんの少しだけ義勇と距離を置くようになった。
距離と言っても他にはわからないくらいほんの少し。

一緒にお風呂に入らなくなった
一緒のふとんで眠らなくなった。
もう子どもじゃないし大丈夫だよなと、手をつながなくなった。

それは大きくなっていく男の成長過程としてはおかしなものではないと思うし、実際それでも中学の頃は、お前らいつでも一緒で仲が良いなと言われていたから、不自然なものではなかったと思う。

でもそれは”成長過程”から来るものではないことを、錆兎だけは知っていた。
自分の中にあるドロリとした感情。

錆兎は義勇を守るつもりだった。
綺麗な義勇を汚そうとする全てのものから。

…それがたとえ自分自身であったとしても……

だから距離を置いたのだ。


完璧に隠したつもりだったそれではあるが、幼い頃からずっと自分を性的な視線でみる男の目に晒され続けてきた義勇は、そんな錆兎の醜くも恐ろしいものにうっすら気づいたのかもしれない。

だから逃げたのか…と、義勇が別の高校に行くと聞いた時に、錆兎はそう思って落胆はしたが諦めた。


まあこの頃になるとさすがに義勇だって女には見えない。
顔立ちは相変わらず綺麗だったが、身体は細くともしっかり男だし、なにより男の制服を着ている。

義勇の高校は電車で行くと少し遠回りで直線距離のほうが近いというのもあって、最初の頃は自転車通学をしていたから他に絡まれる心配もないだろうしと、その頃の錆兎はこれで護衛役はお役御免だと、少し寂しさを感じながらそれでも安堵していた。

まあでも学校が違っても家が隣同士なので、行き来はいくらでもできるので問題はないだろう。
そんな風に思っていたのだが、高校に入って半月ほど、学校が違って行き帰りの道のりも違えば、幼なじみでお隣さんと言っても話す機会などなかなかないものだと、この時期に錆兎は改めて自分の認識の甘さを知ることになる。

会わない。本当に会わない。
あるいは避けられているのでは?とすら思い始めて、いい加減義勇不足に陥った。
そしてなんとか会うきっかけが持てないかと思った時に考えついたのはスイーツ作戦。

錆兎は特に甘いものが好きというわけでもなかったが、義勇と二人ででかけたい時は、よく、甘いものが大好きな義勇に、甘いものを食べたいが自分一人では恥ずかしいから一緒に行ってくれないか?と言って誘っていた。

これで駄目なら…本当に駄目なのだろうと、最後の望みをかけて義勇にLineで駅前に出来たカフェのパフェを食べに行きたいのだが…と、同行を打診してみると、意外にもあっさりOKが出て、その週末の土曜日に二人で駅で待ち合わせてカフェに行き、久々に話をすることができた。


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