幼馴染じゃいられない2


「久しぶりだな。どうだ、高校は?」
「うん…少し…寂しいな」

久々に会った義勇は、そう言いつつ当たり前に自分のイチゴのパフェをまず錆兎の方へ寄せる。
錆兎も自分のマンゴーのパフェを同じように。

このあたりはもう幼なじみなのでどちらがなにを言わなくても当たり前に味見をするしさせる流れになる。

そして2人は当たり前に互いのパフェのシャーベット部分を一匙すくって自分のパフェを自分の前に引き寄せた。

「…なら、同じ高校に来れば良かったのに」
と、義勇の言葉に錆兎がそうつなげると、義勇は
うん……
と言ったっきり黙り込む。

物怖じをしない性格の錆兎と違って義勇は元々おっとりしているし、そもそもがそうやって変態を引き寄せる事が多かった事もあって、他人から一歩引いてしまうところがあるので、人に馴染みにくい。
だからなかなか新しい人間関係に馴染めないのだろう。

少し訪れる沈黙。

「じゃあ通学はどうだ?自転車通学とか、今の季節なら気持ちよさそうだよな」
と、学校についてはそれ以上の何かはきけそうにないので、そこでそんな風に話を振ってみると、

行きは疲れる」
と、返ってきて、なるほど朝の弱い義勇はぎりぎりに出るのだろうから、そうなるかと、錆兎は小さく吹き出した。

「ん、でも帰りはゆっくり楽しめるだろう?」
と、口が小さいせいか相変わらず食べるのが下手な義勇の口元についたクリームを拭ってやりながら言うと、義勇は何か話題を見つけたらしい。
ああ、そうだ、と、パフェから顔をあげて錆兎に視線を向けた。

「昨日な、道を聞かれた」
実に唐突な滑り出しに、錆兎はツッコミを入れたいのを堪えて次の言葉を待つ。

「裏道だからあまり他人に会う事はないのだが、その日は後ろから車が来てな、道を教えてほしいと声をかけられた」
「ほお?」
「大通りまで出たいということだったから、口頭で教えたんだが、わかってもらえなかった。
錆兎ならきっと上手に伝えられたんだろうが、俺は口下手だから
……
「で、地図に描いてほしいとメモ帳とペンを渡されたんだ。
それで描いてみたんだけどな。
その間暇だったのか、相手が何かしているなと思ったんだが、とりあえず頑張って描いてみた」
……

どうもその辺りで嫌な予感がした。

「描き終わってメモとペンを渡したら、なんだか露出して扱いてた」

っ!!!」
と、そこで錆兎が口を挟もうとすると、

「それでなっ」
と、また義勇が口を開いたので、言葉を飲み込んで最後まで聞くことにして、とりあえず落ち着こうと目の前のグラスの水を口にする。

「相手は扱くのを中断してメモを見て、やっぱり地図だとわからないから隣に乗って案内してくれないかと言われたんだ」

…あやうく水を吹き出すところだった。
気合と根性で飲み込んだ自分を誰か褒めてほしいと錆兎は思う。

本当に色々がありえない。
何故そこまでおかしな奴に出会うんだ?
そんなことを思いつつも、

「それで?よもや車に乗ったりはしてないよな?」
と、聞くと、そこは義勇もこっくりと頷いたので安心した。
そうだろう、いくら義勇でもそこは危機感を抱くだろう。

そう思ったわけなのだが、それは間違いだったと次の義勇の発言で知る。

「もちろん乗らないぞ。だって俺は当時自転車に乗っていたから。
自転車を置いていくわけにはいかないだろう?
だから自転車で先導してやった」
……っ!!!!!!」

血管が数本ブチ切れた気がする……

「このっ愚か者がぁああーーー!!!」

声のトーンは抑えつつも叱る錆兎にキョトンとする義勇。

「扱いてるのに気づいた時点で逃げろっ!
裏道なら車で追ってこれない道もあるだろう?!
後ろから追突されて車内に連れ込まれてた可能性だってあるんだぞ!!」

でも道がわからなくて困ってたし

本当に困ってるやつは露出して扱かん!!!
それはただの変態だっ!逃げろっ!!!」

駄目だ義勇は人目のないところに1人で行かせたら駄目な人種だった。
そう改めて思った錆兎は、その後義勇を連れて義勇の家に帰ると、親も幼なじみ同士である義勇の親に事情を説明して、義勇を電車通学に切り替えさせるように進言した。

「あらあらあら、錆兎君、やっぱりしっかりしてるわねぇ」
などとにこにこと言う義勇の母親は、こういう親に育てられるとこう育つのかとそんな感じのふわふわした人なので今ひとつ頼りなく、仕方ないのでちょうど彼女にとっては義勇にとっての自分のような存在である錆兎の母親も呼んできて、一緒に説得してもらう。

いや、説得というほどのものでもない。

錆兎の母親が同じことを言うと、彼女は
「ん~ユウちゃんがそう言うならきっとそうしたほうがいいのね。そうする~」
と、実に何も考えていないようなゆるい感じでそう言って、めでたく義勇は電車通学に切り替えることにあいなった。




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