続聖夜の贈り物_9章10

先日の事件以来、他人は信用しない事にした。
急ごしらえで作った割には魔法の望遠鏡は絶好調で、塔の最上階のアーサーの部屋から大陸の方へと目を向ければ、ピンポイントで“ねこのみみ亭”が見える。


もちろんカーテンが開いていて窓から見える位置にいないと可愛いアーサーの姿は見えないわけだが、少なくとも宿に出入りする不審者をチェックするくらいの事はできるので無問題だ。

そんなわけで今日も暇を見つけては不審者チェックに勤しんでいたスコットは、(スコット視点では)従者達を連れて楽しげにピクニックへと向かうアーサーの姿を目に止めた。

自宅にいた頃はどこも連れて行ってやれないどころか、遊ぶ時間も取ってやれなかった可愛い弟が、ようやく人並みにイベントを楽しんでいる事は喜ばしいと思う。
ただ…ホントは自分が連れて行ってやりたかったと、少し切ない気分になるのは仕方ない事だ。
小さな弟の手を引いてランチボックスを持って…は、さぞや楽しかっただろう。

まあでもそもそも…自分ですらそんなモノに行った事はないのだから、自分がいても楽しませる事はできなかったかもしれない…と、さらに少し落ち込む。

そんな思いを振り切るように観察を続けると、一行の中に幼児がいるのに気づいた。
ただの幼児ではない…というのは、腐っても魔術師一族の頭領のスコットだ、すぐにわかる。
だがただのマジックドールでもないというのもまたわかる。
あんな精巧なマジックドールなど造れるわけがない。

ということで…アーサーの周りで正体不明なものは即注意…と、スコットは指を鳴らすと、図書室のマジックドールに関する資料を空中に映し出した。

そしてそれらしき資料が見つからないと、今度は大陸に渡ったカークランドの人間の資料を映し出す。
少なくとも子供は魔道を帯びているし、そうだとしたらそこまでの技術を持ったものはカークランドを置いて他にないからだ。

「…ん……これか……」

スコットは300年前、大陸に渡った一人の魔術師の記述に目を止める。

アルテュール・カークランド。
当時の“選ばれし者”として大陸に送られた若い…というよりまだ幼い魔術師だ。

両親が他界後、双子の弟達と暮らしていたが、15歳で大陸に送られ、16歳で水の石を見つけて一度島に戻っている。

が、その時、アルテュールが大陸に渡った後、弟達が流行り病で他界した事を知り、そのまま疾走。結局その後行方知れずとなっていた。


「…水の石の力を得て禁呪を使ったか……」
スコットは眉をしかめた。

魔法は完全なモノではないし、出来る事は限られている。
だが、その出来る事の中でも手を付けてはいけないとされている類の魔法もある。
それが死者の蘇生に関する魔法だ。

しかしアルトゥールはおそらく弟達の遺体を元に身体を再生、水の石の蘇生能力を使って限りなく生存時の弟達に近い存在を造ったのではないだろうか。

もちろん300年も前の事ではあるし、想像の域はでないが、そう考えるとあの限りなく精巧で人に近いマジックドールも納得がいく。


さて…どうするか…。

個人的には300年も昔のことでもあるし、別に禁呪に手をつけたと言っても目くじらをたてるつもりはない。

…というか、むしろ自分の責任の範囲外の時代の事なので一個人として見たら、その心情は大いに理解できるところではある。

ただ問題はドール達の中に水の石が取り込まれていると言う事だ。
それを取りださない事には宝珠は完成しない。
かといってそれを取りだされれば、仮初の魔法は解け、ドールはほどなく動きを止めるだろう。

普通ならいくら実際の人間を元にしたとしても所詮はマジックドールだ。
迷う事はないのだが、アーサーのお気に入りとなると話は別だ。

「…ふむ…」
考え込むスコット。

少なくともアーサーに動きを止めるのを前提であのドールから欠片をと入りだせとは言えない。
秘密裏に……自分がやるか……


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