続聖夜の贈り物_9章2

「あ、僕ご飯中なんです。一緒に食べませんか?」
空気が落ち着いた所で嬉しそうに声をかけるマシュー。


「ん、そうだな…」
というアーサーの返答はギルベルトの
「今回はアーサー色々疲れてるから部屋でゆっくりさせるわ、堪忍な」
という言葉に持って行かれる。

そしてそのまま
「え?なっ…」
と抗議の声をあげかけるアーサーを半ば強引に引っ張って途中ベルに
「部屋に軽いもんよろしくな~」
と言い置いて上に連れて行ってしまう。



「……」
それを悲しそうな目で見送るマシュー。
みかねたロヴィーノが、ひょいっと抱き上げて自分達の席に連れてきた。

「悪かったわね。あいつ大人げなくて」
速やかにベルが用意してくれた足の高い子供用のクマさん椅子にロヴィーノがマシューをスポンと下ろすと、エリザが苦い笑いを浮かべて謝罪する。

マシューはそれに対してフワフワの髪を揺らしながら首を横に振って
「いえ…慣れてますから」
と微笑んだ。

「慣れてる?」
ロヴィーノが不思議そうに目を丸くする。

「はい。マスターと暮らしてた頃も、マスターは二人とも平等に可愛がってくれてたんですけど、アル…双子の弟は一人占めしたかったみたいで…
よく強引にマスターひっぱっていっちゃってたんです」

ぽよぽよの眉毛をちょっとはの字にして、困ったように笑うマシューに、ロヴィーノは大きく息を吐き出した。

「お前も……ほんと苦労してんな。
でも簡単に諦めずにもうちっと我儘言った方がいいぜ?」
というロヴィーノの言葉には
「あいつはもうちょっと諦めってもの知った方がいいけどね」
とエリザが当たり前にお約束の突っ込みを入れる。

そんなやりとりをクスクスと笑いながら、クマさんスプーンを口に運んでいたマシューだが、ふと手を止めて視線を落とした。

「僕らは…人間のために作られたマジックドールで人間じゃありませんから、たまに思うんです。
マスターアルテュールが亡くなった今、僕らはなんのために誰のために存在してるんだろうって。
昔からアルはとても外界に興味があって、今頃あちこちで新しい物、珍しい物を目にして楽しんでいるんだろうって思うんですけど、僕が望むのはただ…マスターの側で静かに暮らす事だけだったんです。
マスターの研究のお手伝いをしながらお茶飲んだりお菓子食べたり…天気の良い日はお弁当を持って森にピクニックに行く……そんな日々はもう来ないんだなって思うとたまに…」

「あ~!もう!ロヴィ、アーサー引っ張ってきなさいよっ!」
マシューの言葉を遮って、エリザがピシっと客室へと続く階段を指さしてロヴィーノに言った。

「え~?俺かよ?無理ッ!まじでアーサー関わった時のあいつこえ~よ。」
「あ~~っ、このヘタレ!もういいわっ、あたしが…」
立ち上がりかけるエリザの服の裾をマシューがつかんだ。

「ありがとうございます。でもいいんです。
今マスターがギルベルトさんといて幸せならそれで…」
二コリと微笑むマシュー。
王宮で天使と称されてるうちの馬鹿弟よりよほど天使だ~とロヴィーノは思う。



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