kmt 一般人
「俺は病状の説明はしたがそれ以上は俺の仕事じゃない。 面倒くさいしな、お前からしてやれ。 とりあえずお前の大事な恋人は2年持たないかもしれない事よりも一生無理できない事よりも、敵のスパイとかそんな噂でお前に迷惑かける事の方が気になっているらしいが…」 相変わらず投げやりな調子で何...
「あまり時間をかけるとお前の過保護な旦那が我慢しきれずに戻ってきそうだからな。 要件を簡潔にすませる」 相変わらずニコリともせず淡々とした口調。 義勇にとって猗窩座はホワイトアースの入院患者という設定の信憑性を高めるように開胸手術を施すために寄越された医師というだけの知り合いで、...
「…さび…と…泣かない…で…」 重い瞼を開き言葉をつむぐと声がひどくかすれる。 まるで全てが自分の身体ではないようにうまく動かない。 しかしその声は目の前の男には十分伝わったらしい。 思いつめたような固まったいた表情に感情が戻ってくる。 「義勇っ!気づいたのかっ?! 良かった…ほ...
義勇…いかないでくれ…置いていかないでくれ…… 全てから開放されてふわふわと温かな中で漂っていた。 柔らかく暖かい空気にそのまま溶けてしまいそうな感覚。 ああ…そういうのもいいかもしれない…と思う。
「あ~村田、丁度良かった。鱗滝を呼んでこい」 とりあえず縫合までは終わってたらしい。 しかしピーピー機械が鳴り響いている中でカナエが電気ショックで蘇生中という、もう非常に切迫している状況だ。
「俺ね、鱗滝さんのことよく知る前に雑誌で見てるんですよ」 錆兎の傷を消毒をし、止血をし、綺麗なガーゼを当て、器用に包帯を巻きながら、猗窩座の助手だという人の良さそうな青年、村田は言う。 それに 「あ~、結婚雑誌かぁ?」 実弥が苦笑すると、村田は、そそ、とうなづいた。
例によってガッタンゴットン音をたてながら愛車で教わった地点までの道を急ぐカナエの顔にはいつもの笑みがない。 難しい医療処置をしている時の厳しくも真剣な顔とも違う。 何か傷ついたような、辛そうな…いっそ泣きそうな子どものようなと言うのが正しいのだろうか…。 恐れてたことが起こっちま...
「錆兎さんが物凄い形相で走っていくのが見えたんだけど、義勇ちゃんの容態が何か変わったんですか?!」 バタン!と珍しく慌しい様子で善逸が駆け込んできた。 「へ?昨日なら倒れたけど一応落ち着いて今自室なはずだぜぇ。 っつ~か、もし義勇の容態変わったんなら、まず俺達んとこ抱えてくるだろ...
どうやら自分は他より若干丈夫にできているらしい。 それを錆兎が身をもって実感したのはまだ子どもの頃、皆が死んでいく中で最後に自分だけ生き残った時だ。
早く…一刻も早く助けなければ…。 焦る気持ちを抑えきれずに指定された地点へと車を飛ばす。 目的はおそらく…というか絶対に錆兎自身だろう。 自分が殺されるのは構わない。 でもその後義勇をどうすればいい?
錆兎は本当に一人で来るだろうか…。 こちらに何人敵がいるかわからない状態で…。 初めからもう救出など諦めて大勢で来られたら、それはそれで仕方ない。 というか、本当はそれが一番良いのだろう。 自分と玉壺が一斉射撃か何かで死ねば秘密は守られる。
拾われて以来初めて錆兎は産屋敷を恨んだ。 義勇が倒れた日の午後、出撃命令が下った。
気がつけばベッドの上だった。 ベッドの脇には青い顔をした錆兎。 ああ…倒れたのか…と、ぼ~っと思う。
虫の知らせ…昔からたまに何か好ましくない事が起きる前、なんとなく落ち着かない事がある。 なんとなく嫌な夢を見て早朝に目が覚めた義勇はベッドを抜けだすと荷物の奥深く…財布を兼ねている携帯を取り出した。
「甘露寺さん…今週分はそこに…」 1週間に1度、甘露寺が訪ねてくるようになった。 理由は…エンジェルブランドの品々の仕入れ。
「あのな…俺本当に敵軍の人間なんだけど……」 すっかり日常になりつつある撮影の合間の休憩時間…錆兎に確認するようにそう言ってみる。 本気でこんな有名になってスパイでしたなんて知れたら義勇が処分されるだけじゃすまないんじゃないだろうか…と、心配はつきない。 が、当たり前に 「もうそ...
開けられたドアの向こう…空き部屋いっぱいに積まれた贈り物の山。 綺麗な風景の写真集や刺繍の図案、本、花、その他もろもろ、件の雑誌が発売されて数日後、甘露寺によって運び込まれた編集部に届いた義勇宛のお見舞い品だ。
軍部の雑誌に不似合いな華やかな写真が並ぶのは、ウェディング特集の記事だった。 セクシーな“元”女性から熟年女性…それに二人してタキシードで銃を手に笑っている男性の同性婚の写真もある。 元々は裕福でノーブルな側の人間が多いため保守的なこちら側と違って、敵軍のあたりは随分とフリーダム...
「猗窩座さん、お話はなんだったの?」 手首のところまである家事用のエプロン…いわゆる割烹着を着て頭には三角布。 どこの家政婦かと勘違いされそうだが、村田は軍のエリート医師の助手である。
「義勇さん、視線をこちらに向けて頂いて宜しいですか?」 サラサラの黒い髪の青年の指示を聞いてそう伝えてくるピンクと緑という奇抜な色合いの髪だが可愛らしい女性。 その指示に従って視線を向けると、パシャッパシャッとシャッターが切られる。 点滴その他は外せないが、撮影の間だけ…と外され...