重い瞼を開き言葉をつむぐと声がひどくかすれる。
まるで全てが自分の身体ではないようにうまく動かない。
しかしその声は目の前の男には十分伝わったらしい。
思いつめたような固まったいた表情に感情が戻ってくる。
「義勇っ!気づいたのかっ?!
良かった…ほんとうに良かった…」
いつもの泣きそうな顔ではない…錆兎は完全に泣いていた。
本当に何かが決壊してしまったように綺麗な藤色の瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちている。
これは…もしかして…
「俺のために…泣いてるのか?」
不幸な生い立ちからのし上がってきた強い男のはずだ…。
どんな厳しい戦況でも決して諦めることなく前を向き、道を切り開いてきた……
その男が自分のためにこんなに身も世もなく泣いているのか…?
そんなことを考えている義勇の不思議そうな視線に気づいたのだろう。
錆兎は
「当たり前だろう」
と、少し心外そうに言った。
「俺にとってお前は本当に唯一の大事なものなんだぞ?
お前がいなくなったら俺の人生なんかなにも意味がない。
世界中と引き換えてもお前だけは居ないとダメなんだ」
「そこまでだ。俺の方の話をさっさとすませる。
イチャつくのはそのあとでやれ」
身を乗り出す錆兎をそんな言葉で遮って猗窩座がカナエにアイコンタクトを送る。
「…積もる話はあとでゆっくりね。
術後で気をつけないとダメなこともあるし、先に身体についての注意すませたほうが安心できるでしょ?」
半ば無理やりと言って良いくらいな強引さで義勇と引き剥がされて非常に不満気だったが、錆兎は大人しく引き下がった。
GPSを埋め込むとか怪しい真似もするが、結局義勇がもう死んでしまうという時にいつも救いの手を差し伸べてくるのは猗窩座だ。
下心があろうとなかろうと主治医という立場上、死なせない様にと心は砕いているのだろう。
「俺にとって本当になくしたら困る大事なものなんてお前の他にはないんだからな?
それだけはいつも心にとめておいてくれ。
すぐ隣にいるから、なにかあったら即呼べよ?」
涙をぬぐっていつもの心配そうな目でチュッと額に唇を落とし、錆兎は名残惜しそうに仕切りの向こうへと消えていった。
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