一般人初心者ですが暗殺業務始めます46_呼び声

「あ~村田、丁度良かった。鱗滝を呼んでこい」

とりあえず縫合までは終わってたらしい。


しかしピーピー機械が鳴り響いている中でカナエが電気ショックで蘇生中という、もう非常に切迫している状況だ。

そんな中でも、猗窩座は淡々とした表情を崩さずにしごく冷静な口調でそう言った。


「なんか…手術自体はなんとか成功したんだが、心臓止まってしまっていてな…」

「と…止まってしまってって…そんな悠長な言い方してる場合じゃ……」

「ああ。だからな、鱗滝を呼んでこい。
少しでも色々刺激与えれば変わるかもしれん…」
猗窩座の言葉が終わる前に村田はモノも言わずに反転する。



「鱗滝さんっ!すぐ来てっ!!」
ドアのところで叫ぶと、白衣を身につけたままの錆兎が駆け込んできた。

そして一瞬立ちすくむ。


「…ぎゆう…義勇っ!!!」
ダッと駆け寄ろうとするのを村田と猗窩座が止めた。

「声かけるだけだ。胡蝶の邪魔したら殺すぞ?」
と、猗窩座が、

「蘇生の邪魔したら本当に死んじゃうからねっ。
声だけかけてこちらに呼び戻してあげて」
と、一生懸命な様子で村田が、左右それぞれから押さえつつ言うのに、錆兎は前に進もうとする力を抜いて、


「邪魔はしない。…だから…。顔見える位置に…」
と目をうるませた。

大切なモノを失いかけるあのツラい瞬間をもう一度再現することになるのは、自分の全身を切り刻まれるよりキツイ。


「義勇…サンルイに一緒に行くって言っただろう…?」

青ざめた頬にポトリ、ポトリと涙がこぼれ落ちる。
ツラい…ツラい…ひどい痛みさえ伴うような感覚が体中を駆け巡る。

「サンルイにはな…有名な大きな薔薇園があるんだ。
そこには喫茶室もあってな、美味しい焼き菓子と紅茶があるらしい。
俺は調べたんだ。お前と一緒に行こうと思ってたんだ」
嗚咽をこぼしながら、錆兎はソッと義勇の手を取った。


骨ばった手の中には白く細い手…対照的な手の指にはそれだけはお揃いの金の指輪が光る。

二人がこれから共に生きる証のはずだったそれが自分の指にはまっていることを、義勇だけが知らない。

…それを買った錆兎の気持ちも何もかも知らないまま逝ってしまうのだろうか…



お揃いのバラの指輪をした指を絡めて義勇とサンルイのバラ園を散策できたらどんなに楽しかっただろう。

普段はどこか困ったようなとか、不安げなとか、そんな表情が多い――そういう顔はそういう顔で可愛らしいのだが――義勇だが、綺麗な光景を前に邪気の無い笑みを浮かべる様子は本当に背中に天使の羽根が生えてないのが不思議なくらいだと思う。

可愛くて愛おしくて、泣きたいほど幸せな気分になる。

そこに存在してくれる幸せ……。

義勇さえいれば本当に何も要らないのだ。
地位も金も…必要とあれば命だって捨てられる。


捨てたのか死んだのか親もなく、貧しさに周り中が死んでいく環境で遺体に囲まれて育った日々に感情が凍りついてしまっていた半生も…きっと義勇と出会える幸せのための試練だったのだろう…そんなことまで考えた。

なのに…ここで唯一の…本当にやっと手にした唯一の幸せまで神は取り上げるのか?

大切な者と二人、手をつないでその優しい体温に幸せを感じながらバラ園を歩きたい…そんなささやかな望みすら取り上げようというのか?

そんなのあまりにひどい…と、錆兎は泣きながら首を横に振り、そして

「そこだけじゃない。
元気になったら一緒にいろんなところを回ろう思うってガラにもなく色々調べてたんだぞ?
なぜ一人で逝ってまうんだ。
置いていかないでくれっ…戻ってきてくれっ!でないと辛くて苦しくて死んでまうっ!!
戻ってきてくれっ!!!」
と、血を吐くような思いで叫んだ。


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