一般人初心者ですが暗殺業務始めます33_薄幸の花嫁

軍部の雑誌に不似合いな華やかな写真が並ぶのは、ウェディング特集の記事だった。

セクシーな“元”女性から熟年女性…それに二人してタキシードで銃を手に笑っている男性の同性婚の写真もある。

元々は裕福でノーブルな側の人間が多いため保守的なこちら側と違って、敵軍のあたりは随分とフリーダムで面白い。

今回は特に個性的なウェディングを特集しているらしいので、なおさらだ。

そんな中で村田はとあるページに目を止めた。



生き生きと活力と幸せに満ちた花嫁花婿の中で、唯一切なくなるような儚げな写真。

真っ白なシーツのベッドの上でバックには様々な医療機器。
今にも消えてしまいそうな真っ白な花嫁の漆黒の髪の上にはふんわりと繊細なレースのヴェール。
後ろに立つおそらく配偶者の青年の適度に筋肉のついた健康的な肌との対比で、よけいにその白さが目立つ。

ヴェールに散らした白い花びらも点滴のついたままの細く白い手の中にある真っ白な薔薇も、ともすれば天に登っていく弔いの花にも見える。

とても美しいがどことなく切なく悲しい…そんな写真だった。



思わず下の説明文にまで目を通す。

重い病気で手術を待つ病弱な花嫁。
自分が軍人であるということで危険に巻き込んでしまうにはあまりに儚いその命に、なかなか決意できなかった花婿。
それでもそれが例え短い時間で終わるかもしれなくても、一緒に居ることを選んだ二人…

そんな内容の切ない説明文が流麗な文章で切々と綴られている。


人の良い村田が思わずホロリと涙ぐみ、
「猗窩座さん、どうせなら玉壺大佐殺害を画策するより、こういう人達を救う事考ようよ…」
と、鼻をすすると、猗窩座は
「…ホントに村田らしい意見だがな、その嫁のことをもっとよく見てみろ」
と相変わらずニコリともせずに言った。

「へ?」
村田はもう一度雑誌に目を落とす。

そしてまじまじと凝視した。

俯き加減な顔の半分はヴェールの下だが、本当に薄いレースなので、かろうじてうっすらと顔を識別できる。


長い睫毛に縁取られた大きな目。
キラキラと…まるで湖面のように青く澄んでいる。
唇も人形のように小さく、全体的に雑誌に載っている他の花嫁達よりはやや幼い印象を受ける。
いや、実際まだ幼いと言って良い年なのかもしれない。



「え~っと…とても可憐な感じの花嫁さんだよね?
まだ若そうな……」

「………一応言っておくと、その花嫁は少年だからな」

「ええ?!!!」


猗窩座の言葉に驚いて、村田はまたページを凝視する。

ベッドで半身を起こしてふんわりとした寝間着にヴェールだったので全く気づかなかった。
男にしては随分と細いな…と思っていると、猗窩座のため息。


「…お前の目は節穴なのか?
あ…しかしあれか…お前は運転席にいたから、あまり後ろ見てなかったのか。
手術の時もいなかったしな」
ふと思いついたようにそう言われて、さすがの村田もハッとした。

「もしかしてこの子が玉壺大佐の?」
猗窩座の指摘通り、運転席で前方を見張っていたため、後部座席に運んだ少年の姿は遠目にしか見ていない。

言われてみれば漆黒の髪と華奢な体格、真っ白な肌などはそうかな?と思えなくはないが、そうだと断言できるほどは見ていないのでわからない。

それでも猗窩座がそうだと言うならそうなのだろう。

「で?何故こんな話になってるの?」
村田が首をかしげると、猗窩座は
「あながち間違っているわけではないだろう?
まあ…誇張はされているし、微妙に色々誤解されている部分はあるけどな」
と、言った。

いや、でも確か彼は猗窩座が恩人に治療させたいという理由だけで病人に仕立て上げて送り込んだわけで…それどころかそんな猗窩座の思惑を知らないこちらの軍からしてみたら、花婿である鱗滝を抹殺するために送り込んだ暗殺者という事になっているはずだ。

(…うん、でも事実よりこの雑誌の説明のほうがなんだかしっくりくるなぁ…)

事実を知っている村田でさえ、そう思ってしまうくらい写真の花嫁は暗殺者のイメージと結びつかない。

「ホントに…さすが玉壺大佐の秘蔵っ子だけありますね…」
ここまで完璧に化けられるのはすごい…とため息をつく村田に、猗窩座はまた冷ややかなに言った。

「実に馬鹿正直なお前らしい意見だが…たぶんそれは少年の実力ではなく、周りの人間達のすさまじい思い込みと妄想の産物だぞ?おそらくな。
奴もきっと今頃、『どうしてこうなった?』と思っているだろうな」

そして…それは実は事実であるという、小説より奇なりな現実なのである。


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