一般人初心者ですが暗殺業務始めます34_どうしてこうなった?

開けられたドアの向こう…空き部屋いっぱいに積まれた贈り物の山。

綺麗な風景の写真集や刺繍の図案、本、花、その他もろもろ、件の雑誌が発売されて数日後、甘露寺によって運び込まれた編集部に届いた義勇宛のお見舞い品だ。


「一応安全はきちんとこちらの方で確認したものだから安心してくださいねっ」
と、にこやかに言われて、義勇は礼を言いつつ笑顔をひきつらせる。

何故?何が起こった?と、目を白黒させていると、毎回彼女に同行して伝わりにくい部分を補足してくれる伊黒が今回も見かねて説明してくれた。


元々ほぼ男所帯のこの軍では可愛らしい…守ってあげたいタイプに弱い。
そんな中で先日の記事は多くの軍人達の心を鷲掴みにしたらしい。

一応何件かある特集記事内のウェディング記事の一つのはずだったのだが、義勇の記事だけものすごい反響で、編集部にはこの他にもまだ安全確認の終わっていない見舞い品やら手紙やらが山と届いているとのことだ。

もう個人で騙してました…じゃすまないレベルで大げさになっている気がする。

どうしよう…と、義勇は内心頭を抱え、自分でも確認しきれない量の荷物に目を向けた。


(あ…薔薇……)

その時、半ばパニック半ば呆然としていた義勇の目に止まったのは小さな薔薇の鉢植えだった。

おそらく写真で白い薔薇のブーケを持っていたためだろう。
奇しくも義勇は植物を育てるのが好きで、薔薇は以前に錆兎も苗を取り寄せてくれて自軍の基地内で唯一出ることの許されていたほんの小さな庭の中でも育てていたものだった。

その視線に気づいてか、ベッドから動けない義勇の元へ錆兎が鉢植えを持ってきてくれる。

「これだろう?
初めて見かけた時も嬉しそうにバラ園を見ていたよな」
と言われて、見られてたのか…と、少し赤くなる。

「ああ、あのホテルの薔薇はとても綺麗だったから。
これも庭に植え替えていい?」
と小さく頷くと、錆兎はとんでもない提案をする。

「もちろんだ。
どうせなら通年で育てられるように、庭にそのための温室作ってやる。
そこで薔薇でもなんでも育てたらいい」


錆兎の居住スペースには大きな庭がある。

軍の敷地は大きなドームで覆われていて空調もしっかりしているが、より適した気温にするために温室をということらしい。

もちろん、それは上級将校にのみ許された贅沢なわけだが……。



「そこまですることは……」
それでもさすがにそこまでさせるわけには…と義勇は慌てて辞退するが、錆兎はチュッと軽く額に口づけを落とすと
「別にかまわん。
それでお前が少しでも元気になってくれるのなら全く構わないぞ。
お前が起きれるくらいまでには出来上がるように手配しておくから、早く体を治そう」
と軽く義勇の髪に指を滑らせた。


もちろんその様子は読者のリクエストに応える形で更に雑誌に掲載され、更に多くの薔薇が編集部へと届けられ…義勇は前代未聞、実は敵方の暗殺者であるはずが『白薔薇の天使』と称される基地内屈指の有名一般人になっていった。


ああ、どうしてこうなった…。

事実を突きつけたとしても事実の方が虚構として扱われる…。

本当にネジ曲がりすぎた事実がさらに斜め上方向に変わっていくのを、もう誰も止められない……。


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