一般人初心者ですが暗殺業務始めます44_ストレングス オブ ノット シンキング

例によってガッタンゴットン音をたてながら愛車で教わった地点までの道を急ぐカナエの顔にはいつもの笑みがない。

難しい医療処置をしている時の厳しくも真剣な顔とも違う。
何か傷ついたような、辛そうな…いっそ泣きそうな子どものようなと言うのが正しいのだろうか…。

恐れてたことが起こっちまったなァ…と思う実弥。


義勇に何かあれば錆兎のダメージは計り知れない…が、それ以上に妹と同じ病気の人間をまた死なせたというトラウマを突付かれつつすでに弟のように可愛がっていた友人を亡くすカナエのダメージも大きい。

こんなことなら錆兎が休暇に一人で旅行に行くと言った時に、無理にでも自分がついていけば良かったかも…と、今更ながらに後悔をした。

錆兎を義勇に出会わせてはいけなかった…実弥は今更ながらそう思った。



「ああ~、もうっ!今度改造する時はもうちょっとパワー出るようにしないとっ」
と珍しく苛立ちを…というか、傍から見ていると拗ねているように見えるような可愛い表情を見せて、そうつぶやくカナエ。

いや…こんな色々積んだ大型車がこれ以上スピードだしたら十分危ないだろうがぁ…と、実弥は思うわけだが、ツッコミをいれようにも口を開いたら舌をかみそうだ。

なので自分の舌の安全のために黙っておく。


しばらくすると遠くから砂埃。

目を凝らすと少し先に一台の車が止まっていて、その車をはさんで向こう側から一台の車が疾走してくるのが見える。

止まった車の側まで来て急ブレーキをかけるカナエに実弥は盛大にガックンと前のめる。
シートベルトをつけていなかったら、放り出されそうな勢いだ。

それに何もいう事なく、カナエは無言で飛び出していき、護衛役の実弥も慌ててそれを追う。



「頸動脈と頸静脈を間違って切るとは、軍人としてどうかと思うぞ。
まあおかげで出血止まって、手当すれば余裕で助かるんだけどな。
とりあえず、胡蝶の車は移動病院なんだろう?運んだほうが良いな」

少し離れた所から見ただけで状態がわかったらしく、肩をすくめてそう言うと手を伸ばす猗窩座を、カナエは
「待ってっ!」
と制止する。

「胡蝶?」
きょとんと首をかしげる猗窩座に、カナエはこぶしを握りしめたまま俯いた。

「そのままにしといてあげましょう…」
少しつらそうに眉を寄せて、口元だけ無理に笑みの形を作って言うカナエに、猗窩座は

「何を言ってるんだ?」
と不思議そうに問う。



二人の間から覗き見ると、仰向けに倒れている義勇に折り重なるように倒れている錆兎の顔には泣きはらしたような跡…。

傷はどうやら側に転がっているナイフで自らつけたもののようだ。

置いていかれたくない…一緒にいたい…そう思って後を追ったその意志を尊重してやろうと、カナエは思ったのだろう。

「鱗滝君は助かったとしても、義勇ちゃんは無理だもの…。
鱗滝君はいつもいつも大事なモノに置いてかれる事に苦しんで苦しんで…義勇ちゃんで大事なモノを持つのは最後にするって言ってたの。
大事なモノを亡くして自分だけ生き長らえ続けるのはとても辛いものよ?…ほんとうに…」

一緒に人生を終わらせるタイミングが掴めたのなら、それを見送ってあげたい…と、そう小さく付け加えるカナエをスルーで、猗窩座は後ろにいる助手の村田に声をかけた。


「じゃあ、そういうことで村田、鱗滝の方を運んでしまえ。
俺は冨岡義勇を運ぶ」
と、言う言葉に、村田が慌てて
「ちょ、それ反対じゃない?俺一人じゃ無理っ!」
と言うと、
「じゃあ、そこのお前も手伝え。さっさとしろ」
と、猗窩座は実弥をもうながした。


「ちょ、待ってっ!私の話…」
「聞いていたが?
ようは冨岡を助けられなかったら鱗滝にトドメをさしてやればいいだけだろう?
一応手術用の血液は持ってきたから、さっさとオペを始めるぞ?
どうせ失敗するんでもやるだけはやればいいだろう?俺達は一応は医者なんだからな」

相変わらず淡々と…しかし断固として言う猗窩座に、カナエは一瞬ぽか~んと呆けて、次の瞬間、

「ええ、そうよね。ホワイトアースの医術学校の2年度分の主席が揃ってるんだから、チャレンジしてみないという手はないわよね」
と、泣き笑いを浮かべた。


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