一般人初心者ですが暗殺業務始めます36_エンジェルブランド

「甘露寺さん…今週分はそこに…」

1週間に1度、甘露寺が訪ねてくるようになった。
理由は…エンジェルブランドの品々の仕入れ。

義勇が手ずから刺した薔薇の刺繍のハンカチやキーホルダーなどの小物はお守りとして人気があるし、庭で咲かせた薔薇で作ったジャムやお茶も好評だ。

それらはいったん編集部のサイトでオークションにかけられ、売上金は全てカナエが戦災地域を回って無償で治療をするための医薬品などの購入に充てられる。



「相変わらず見事な刺繍ですねぇ…」

義勇が淹れた紅茶を一口飲んでほぉっとため息をつきながら、甘露寺は品々の中から一枚のハンカチを手にとってしみじみと言った。


「…俺なんかが作ったもので本当に良いのか?」

敵軍のスパイなのに…と言う一時よく使っていた言葉は飲み込んでおく。
ここまで有名になってしまうと今更それを言っても錆兎に迷惑をかけるだけだろう。

それでも…良いのか?と言う気持ちが拭えずに納品するたびそう聞くのだが、甘露寺はそのつど

「もちろん!義勇さんが作るから意味があるんです。
皆さん、義勇さんが作ったエンジェルブランドの品物が欲しくて大金はたいているんですから」
と大きく頷くのだ。



ことの始まりは義勇が無茶をしないにはどうしたらいいだろうか…と錆兎に相談されたカナエが、
「ん~じゃあ暇つぶしにハンドメイドとかどうかしら?
それをオークションで売って私たちのボランティアの資金に寄付してもらうとか?
私もね、しのぶを亡くしてすごく落ち込んだ時にボランティアをすることで生きがいを見つけて立ち直ったから…」
と提案したことである。

自分のやることで誰かを救うことが出来る…それは逆に考えれば、大小の差はあったとしても自分がそれをできなくなることで誰かを救えるものが減るということになる。

自分が何かに貢献することで、自分を大事にできるのではないか…と、言うのである。


それはずいぶんと良い考えに思えた。
そして実際に義勇に打診すれば、義勇も喜んで承諾する。

ということで、それから義勇はカナエに教わって刺繍やレース編みなどで作品を作るようになった。


その、義勇の作ったものはオークションで落札後、甘露寺がデザインし広報部で印刷された天使の羽根模様の包装紙に包まれて落札者の元に届く。

それらはエンジェルブランドとして基地内で大人気だ。

その品の質の高さもさることなあら、義勇が体調の良い時に合間を見つけて作るものだから、非常に数に限りがあるのだ。

“白薔薇の天使が戦災地域の人々を助けるためにボランティアで作っている品々”
そんなイメージももちろん商品の売れ行きに拍車をかけている。


そんな風に売り上げが順調なのはいいが、錆兎としては義勇が根を詰めすぎるのがやや心配だ。
それでも義勇がとても生き生きとしているので、協力はしているのだが…



(可愛いな…確かに本当に天使なんだけどな…)

甘露寺が帰った後、自室のふわふわの絨毯の上に座り込んでぬいぐるみを抱きしめたままうたた寝をしている最愛の天使を抱き上げて、ベッドに寝かせてやる。

風邪でもひいたら大変だ。
本当に命取りになりかねない。

配偶者というよりはまだ守るべき小さな存在で、実際にキスすら額や頬にしかしていない。
乱暴に触れたら壊してしまう。

まるで身体の弱い子どもの親にでもなったかのように、とにかく無事に生きて健康になってくれと日々願っている。

今ですらこんなに愛らしいのだ。
子どもの頃の愛らしさと言ったら、おそらく本当に天使以外の何者でもなかっただろう。

なのに先天性の心臓病を患った状態の義勇を捨てられた親がいたなんて本当に信じられない。

そんな風に親から諦められて半ば捨てられたせいか、義勇は自分のことについては悲しいほど諦めが良い少年だ。
何もかも…自分の人生も命も簡単に諦めてしまう。
そのくせ他人を優先して、気遣うのだ。

自分がスパイかと疑われた時も、義勇は自分の身を守る事を早々に放棄して、自分を落とす事で錆兎を巻き込まないように画策しようとした。

おそらく…それが誰かのためだと言われたなら、義勇は簡単に自分の命を投げ出すだろう。………それが怖い。

それでなくてもいつ止まるかわからない心臓を抱えているのに……守られてくれない。

どれだけ自分が大事な存在なのか、全くわかってない…わかってないのだ。


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