ソレが問題だ
── それ、いつどこでだ?こちらでも調べてみる。 ギルベルトが切りつけられた報告をすると、スコットはなんだか嬉しそうな声で言う。
「誰がやったんかわからんし、危ないから家まで送ったるわ」 と、すぐは無理にしてもなるべく早い段階でフランを助けるために転職してくるということで納得してもらって、さあアーサーの待つ自宅に帰ろうとすると、アントーニョが自分も上着を着て外にでる準備を始める。
「ギルちゃん、ずいぶん個性的なカバンやねぇ。 なんや今の流行りなん?」 必死の形相でボヌフォワコーポレーション本社ビルに飛び込んで、フランシスは忙しいだろうからと、受付でアントーニョを呼び出してもらう。
「これは…どういうことかな?」 会社に辞表を提出した。 そして副社長に呼び出される。 もちろん社長である父も一緒だ。
『あ~ … たぶん、 ” 今 ” なのは、拉致った時の研究者の話だと、本来なら月のアレが始まるのは今月からくらいの予定だったからだろうな … 』 リチャード・カークランドと分かれてすぐ、スコットに電話を入れて呼び出された旨と言われたことを話したなら、そう、答えが返ってきた...
「単刀直入に言う。息子を返して頂きたい」 指定された時刻、指定された店の個室に足を運べば、そこにいたのは初老の男。
一度しかことに及んでいないので、週数はすぐわかる。 Xday から 1 ヶ月強。 ゆえにだいたい今 2 ヶ月強と考えればいいだろう。
── まあ … 医療関係あるあるかもしれんが …… と、スコットが話し始めた内容は、決して ” あるある ” ではないとギルベルトは思う。 こんなことが “あるある” と言うほどあったら、世の中空恐ろしすぎだろう。
『ちょうどよかった。今電話をかけようと思っていたところだったんだ』 スコットに電話。 コール音ふたつでつながった瞬間、スマホの向こうの相手はそう言った。
「 … ぎ … ぎる … やだ … やだやだやだっ …… 」
「アルトどうしたんだっ?!!」 ギルベルトが帰宅すると、リビングのソファに寝かされていて、その正面でアントーニョが座っている。
「にんしん … けんさ …… やく???」 もうなにをどこかから突っ込んでいいのかわからない。 だってありえない。 自分は男だ。
「オ~ラッ!別荘で会うて以来やね。これ土産~」 ドアを開けるといきなりヌッと差し出される紙袋。 中には赤々とした大量のトマト。 なぜ手土産がトマト??と思いつつも受け取ろうと礼を言って手をのばすと、 「ああ、重いから親分が持ってったるわ。 なん...
「そんなに根を詰めないほうが良いんじゃね?」 コンコンとドアをノックして、ギルベルトが食事の乗ったトレイを置いていってくれるのに礼を言いつつも布から目を離さないアーサーに、ギルベルトが気遣わしげに綺麗な形の眉を寄せる。 そして 「ごめん。 どうしてもイメー...
それからの 1 ヶ月間は実に平和だった。 ギルベルトは正確には休暇ではなく自宅勤務という形態にしただけなので、平日の日中は書斎にこもってデスクに向かっている。 その間にアーサーは炊事以外の家事に勤しみ、その他の時間は刺繍三昧だ。
ギルベルトの友人はにぎやかな男達だった。 フランシスとアントーニョ。 どちらもギルベルトと同じく財閥の総帥の親族だとのことである。
まったくもって驚いた。 自分でも何が起こったのかわからない … 。
「かっわかわええぇぇ~~~!!!」 はしゃぐアントーニョ。 それを押さえるフランシス。 招いた別荘でアーサーと並んで出迎えたら、もう想像していた通りの光景だ。
…悪い…限界だったんだっ!!! 最終兵器なはずの悪友たちを呼び出したのは、それからたった 2 日後のこと。
こうして 新婚ごっこは 波乱含みで始まった。 だが、おそらくリカバリはできたのではないかと、ギルベルトは思っている。