と、すぐは無理にしてもなるべく早い段階でフランを助けるために転職してくるということで納得してもらって、さあアーサーの待つ自宅に帰ろうとすると、アントーニョが自分も上着を着て外にでる準備を始める。
「タクシーやったら安全とは言えへんやん。
車ごとひっくり返されたらしまいやで。
ええから待っとき」
というと、なんと”可愛い後輩達”に電話をかけているようだ。
「オ~ラ!今から会社来れるやつおる?
最低でも車一台囲めるくらいは欲しいんやけど。
せやせや、あ~、別に単車組おってもええで?
単になぁ、アホなことする車とかおったら、どついたりたいだけやねん。
せやね。ほんならよろしゅう」
それで通話を終わらせるアントーニョ。
これ、どう考えても暴○族の車で帰れってことだよな……いや…わざわざ来てくれるのはありがたいけど……
「お前の可愛い後輩たちが護衛してくれるって?」
と言いつつ向ける笑顔がひきつる。
数十分後、会社の前にずらりと並んだ単車と、それに囲まれた車をみて、さらにひきつる。
道ゆく人達がなにごとか?と驚いて向けてくる視線が痛い。
それでも彼らは赤の他人のギルベルトのために時間を割いてくれたのだ。
礼を言っておとなしく用意された車に乗った。
こうしてアントーニョに伴われて”特別車”でマンション前まで。
「わざわざ時間を割いてもらったんだ。
これでなんか旨いモンでも奢ってやってくれ」
と、ギルベルトは念の為とエントランスまでついてきたアントーニョに大卒の初任給くらいの紙幣を渡す。
「え~。別に気ぃ使わへんでもええねんで?
ギルちゃんおれへんかったら、親分就職どころか卒業できてへんし。
これからも助けてもらうことになるんやから」
というアントーニョに
「お前にじゃねえよ。
お前の可愛い後輩ちゃんたちにだから、ちゃんと奢ってやってくれ」
というと、
「ほな、今回来てへんけど色々調べるのに動いてもらっとる子ぉたちも呼んで、みんなで焼き肉でも食わせてもらうわ~。おおきに」
と、アントーニョはそう言って後輩たちの元へと戻っていく。
そうしてもう攻撃なんてされようがない方法で帰宅をしたギルベルトは、エントランスからエレベータに乗る。
カバンはもう少しで産み月なアーサーがショックを受けると困るので、とりあえずとアントーニョに用意してもらったものだ。
これが服だったりすると、サイズもあるし、今言ってすぐというわけにもいかないので、カバンで良かったなぁなどと、その新しいかばんを見て呑気に思う。
「ただいま~」
と帰る我が家。
「おかえりっ!!」
と飛び出してくる嫁。
腹がもうだいぶでかくて、危なっかしいので飛び出してくるのはやめて欲しいと常々言っているのだが、聞いてもらえずハラハラする。
「俺様、転ぶと怖えから走んのはやめてくれって言わなかったっけかな?奥さん」
飛びついてくるのを受け止めながらも、そう言って苦笑するギルベルトに、
「だって…いつもより遅かったから……待ってたんだ」
と、萎縮することなく答えるようになったのは、まあ前進したのかなと思う。
なにしろ自己肯定感が地の底まで低くて、さらに籍を入れたきっかけもきっかけだったせいで、本当に好きだ大切だと言っても全然信じてもらえない時期が続いたのを、毎日毎日、自分にとってアーサーがどれだけ大切なのかを語って聞かせ続けたのだ。
なかなか根気のいる作業だった。
でもおかげでこうやってちょっとくらいなら注意しても怯えずに、甘えてくれるようになった。
「わるい、わるい。
このところ言ってたけど、フランを助けるために転職しようと思って辞表出したんで、呼び出されてな。
それが終わったら、今度はトーニョのとこに行ってたから」
…というと、大変だな、お疲れ。と、脱いだ上着を受け取ってハンガーにかけてくれる。
嘘は言っていない。
だが、お腹の大きい伴侶に心配をかけてもいけない。
それでなくとも、本来出来るはずのないこどもが出来て、産むまでは全てが未知数の状態で、そっちでいっぱいいっぱいなのだ。
とにかくアーサーに気づかれる前に、色々を解決してしまわなければならない。
その日はいつもの通りギルベルトが食事を作って、悪阻も収まってきたアーサーに栄養のある食事をたっぷり取らせると、滑ると危ないからと一緒に風呂に入って洗ってやって、あがったら早めにベッドに放り込む。
もちろんアーサーが寝付くまでは自分も一緒に横たわって添い寝。
その後こっそり抜け出した。
そうして電話をかける先はスコットのところ。
今日の一連を報告して、情報を共有して置くためである。
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