「ギルちゃん、ずいぶん個性的なカバンやねぇ。
なんや今の流行りなん?」
必死の形相でボヌフォワコーポレーション本社ビルに飛び込んで、フランシスは忙しいだろうからと、受付でアントーニョを呼び出してもらう。
「会社やめてきてくれたん?!!」
と、まずノックもなしにドアを開けての第一声。
「半日でやめられねえよっ!!」
と、それに思わず立ち上がってツッコミを入れるギルベルト。
そこでくるくると動き回るアントーニョの興味はギルベルトが座っていたソファの横に置かれたざっくりと切られたカバンに移ったらしい。
そして冒頭のセリフ…
発想のわけのわからなさがさすがアントーニョだと感心しながら、
「こんな流行り、俺様は嫌だぜ。
断固拒否するっ!流行りに逆行して生きるっ!」
と、きっぱりとそれを否定した。
すると今度は
「ふ~ん、ほなら誰にやられたん?」
と、声が低くなる。
いつも明るく太陽のよう…と、言われるこの男だが、怒らせると普段の能天気さから一転、太陽は太陽でも灼熱の全てを焼き尽くす炎に変わってしまう。
なにしろこう見えて元ヤンだ。
恐ろしいことに中学から高校までは、このあたり一帯の総番だったという過去を持つ。
「言うてや?
隠し立てはなしなしやで?」
そういうアントーニョは笑顔だが、目が笑っていない。
気のせいなのだろうが、室温が一気に下がった気がする。
「親分が来てや言うとる相手に切りつけるっちゅうことは、それなりの覚悟があってのことやんな?」
という目はすっかり現役。
怖くない…別に怖くないぜ、俺様…
と思いつつも顔が引きつった。
被害者を脅してどうする?と思うが、本人は別に脅しているつもりはないのだろう。
単に加害者に腹をたてているだけで……
「いや…会社出たら急に切りつけられて…避けたんだけどな。
体制崩してたから逃げられた」
と、ギルベルトが正直に状況を伝えると、アントーニョは黙って内線で
「ああ、俺や。
会社の入り口に防犯カメラあるやろ?
ここ1時間くらいのデータを親分の携帯に送ったって」
と、指示。
しばらくしてどうやら送られてきたらしい。
すると、今度はその携帯でどこへやらメール。
そして電話。
「おう、俺や。久しぶりやな。
データ見てくれた?
せや、今送ったやつな。
そのナイフ持って写ってる男探したってや。
おう、若いのも使うて。
見つけた子ぉには今度なんか奢ったる。
ああ、せや。
見つけたらいつもの場所にご招待したって?
で、親分に連絡してな?
おう、おおきに。頼むわ」
…………
…………
…………
どこに連絡したのかわかった気がする…
というか、まだ色々つながりがあるのか…。
スマホの通話を終了すると、
「ほな、この件は親分の可愛え後輩たちが調べてくれる言うからお任せや。
で?ギルちゃん、うちに来れそうなん?」
関わりたいかというと関わりたくはなかったりもするのだが、アントーニョの可愛い後輩たちには素直に感謝する。
そして、
「ほんま、悪気はないんやろうけど、なんで重役みんなあんなに仲悪いんやろな。
ガタガタやねん。
フランは方針決めるとかめっちゃ下手やし?
なんとかこっちにこれへん?
ギルちゃん、そういうのまとめたりとか、めっちゃ得意そうやん」
と、電話を終えたら一転、いつものアホの子アントーニョに戻っている変わり身がすごいとギルベルトは感心した。
ああ、自分の半日でやめてこれないというのをもしかしてやめられないととったのか?
そう思って
「いや、退職届は受け取ってもらえたから、最終的に転職は出来るけど…」
と伝えると、アントーニョは
「はようしてくれな、潰れんねんけど…」
と、情けない表情で眉尻をさげる。
「…潰れる?フランが?」
「それと会社も」
主語がないので口にした質問に返ってきたその答えに、いくらなんでもトップが亡くなったからって2日で潰れる会社はねえだろうよ…と、ギルベルトは頭を抱えた。
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