ギルベルトが切りつけられた報告をすると、スコットはなんだか嬉しそうな声で言う。
と、思うギルベルトだったが、なんのことはない、
『それがもし親父の仕業なら…片をつけることが出来る』
ということらしい。
「え?でもお前、前に犯罪者の家族には…とか言ってなかったか?」
と言えば、電話の向こうで苦笑。
『俺は残る。で…おふくろと弟2人は海外だな。
とりあえず親父がいなくなれば今よりは会社で権限が出来るし、会社を立て直して3人に不自由ない生活をさせるくらいはまあ、死ぬ気でやればなんとなる気がする。
会社で特許もいくつかかかえてるし』
とどのつまりは家族の生活のために自分だけ残って矢面にたつということか…。
長男の鑑のような男だと思う。
自分は長男であることよりも、自身の幸せを選んでしまったギルベルトとしては余計に…。
彼がそんな道を選ばざるを得なくなった一因がギルベルトの愛する伴侶だったりするので、なんだか申し訳ない気にもなったが、それを口にすると相手は苦笑して
──いや、逆だろう。家庭の問題に巻き込んでいるのはこちらのほうだ…
と、言うと、最終的に双方どちらかが犯人を突き止めたら連絡をする約束をして通話を終えた。
通話を終えて寝室に戻ると、眠っていたはずのアーサーが半身起こして待っていた。
そしてどこか不安げな表情で戻ってきたギルベルトを見つめている。
「おう、どうしたよ。
ちゃんと寝ないと身体によくねえぞ」」
と、慌ててかけよるギルベルトに
「…ギル…もう、いい。良いから……」
と、アーサーは泣きながら無理に笑みを浮かべた。
細い肩がふるえ、ギルベルトより一回り小さな手はギュッとブランケットを握りしめている。
そんなアーサーの様子に、ギルベルトは固まった。
細い肩がふるえ、ギルベルトより一回り小さな手はギュッとブランケットを握りしめている。
そんなアーサーの様子に、ギルベルトは固まった。
「は?」
何が良いのか全くわからない。
ポカンとするギルベルトにアーサーが、それ…と指差したのは、今日切られたカバンの代わりにアントーニョが用意してくれたカバンだ。
「…?カバンがどうした?」
ひっくひっくと目の前で嗚咽するアーサーの泣いている理由が分からずにオロオロとするギルベルトに、アーサーは両のこぶしで目元をぬぐう。
腹がもう大きくて、その中には子がいるというのに、そんな仕草は幼子のように愛らしい。
「な、俺様何をしちまったんだ?
理由を教えてくれ、理由を。
ちゃんと謝るからな?」
そう言って冷えないようにとアーサーの肩にガウンをかけてやると、アーサーはぽろり…とまた涙を一粒。
そして言った。
「…カバン…くれた女性と電話してたんだろ…?」
「はああ????」
何故そうなる?本当に何故そういう発想になるのかがわからなくて口を開けて呆けるギルベルト。
それを別の意味にとったのだろう。
「…いいんだ……。元々ギルは家のための結婚だったし……子どもできたのだって普通ありえないレベルの想定外の出来事だったし……ギルのせいじゃない……
好きな女性が出来たなら、夜中にこっそり電話とか、そんなことしないでいい…
俺は…1人でもちゃんと子ども育てるから……」
大きな瞳からポロポロ涙をこぼす最愛の伴侶に、
「あ~の~なぁ~~~見るか?履歴」
と、ギルベルトは大きく肩を落としてスマホを立ち上げると、通話履歴を出してアーサーに差し出した。
当然そこにある名前は……
「すこっと……にい…さん?」
大きなまんまるの目がさらに大きくまんまるになって、こぼれ落ちてしまうのではないかと心配になるほどだった。
「そ、カバンをくれたのはトーニョ。
前のカバンちと壊しちまったから、帰りに寄った時にちょうど新しいの一つあるっていうから。
で、アルトの出産とか諸々でスコットとは定期的に連絡とってて、今電話してたのはそれ」
「え……じゃあ……」
見る見る間に赤く染まる頬。
「本当に…いい加減おれさまの愛情信じてくれたかと思ったら、まだこれか。
甘やかし足りなかったな。
俺様は自分の伴侶も自分の子も絶対に手放す気はねえから、いい加減、執着されまくる覚悟しとけ」
そう言って頭をガシガシ撫でると、アーサーはギルベルトにだきついてわんわん泣き出した。
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