こうして古いものが一隻きりではあるが船は確保。
人員も今の船員たちを預けてもらえるらしい。
しかしながら、今の船で遠出や戦闘をするのは心もとない。
なので、まず大きく丈夫な船を何隻か手に入れたいところだ。
だが、アントーニョの言う通り、フランシスにいくばくか都合してもらうにしても、限度がある。
金持ちの商人の息子だと言っても、悪友にそこまでの資金を工面してもらうのは無理だ。
となると、金を稼がねばならない。
などとつぶやきながらギルベルトが城門をでようとした瞬間、
「ギルベルト様、お助けくださいませっ!!」
と、待ち構えていたように飛び出してきたのは、貴族のそれとは違うが上等な服装をした見知った顔の初老の男だ。
「あれ?ボヌフォワのオヤジさんじゃねえか。
今、おたくにフランを訪ねて行こうと思ってたんだけど……」
との言葉の通り、彼はシャルル・ボヌフォワ。
フランスから移住してきた商家の主で、ギルベルトが初期資金を借りようと思っていた幼馴染フランシスの父親である。
これから海へと乗り出すための資金源となるフランシスの親…つまり、実質のスポンサーとなるかもしれない人物が、タイムリーに助けを求めているとくれば、きかないというほうはない。
「なんだ、どうした?」
と駆け寄っていくと、向こうも必死の形相で駆け寄ってきた。
どうにも様子がおかしい。
よほどのことが起こっているのだろう。
海千山千の商人であるこの男がここまで青ざめて動揺しているところは見たことがない。
駆け寄ってきたギルベルトの両腕を掴んで、シャルルは、ああ…とため息をついた。
とりあえず先に彼の要件をなんとかしなければ資金援助の申し出ができる状態ではなさそうだ。
そんな打算半分、幼い頃からその息子との付き合いがあってもうずいぶん長い付き合いになる相手を心配半分、
「なんだか大変そうだけど、俺様に何かできることがあるか?」
と、尋ねたギルベルトの問いに返ってきた答えはとんでもない言葉だった。
「せがれが…フランシスが処刑されるかもしれません!!」
「はあぁぁ???」
いやいや、なぜそうなる?!
ギルベルトのように軍人として名高くて他国への離反を疑われたりすることもない、礼儀作法は豪商の息子らしく幼い頃から仕込まれているため、アントーニョのように空気を読まずに貴族に無礼を働いて恨みを買うこともない男だ。
もちろん、父親は金持ちなのだから、金で犯罪まがいのことに手を染めることもありえない。
他にはなんだ?
何をやらかせば死罪に問われるほどの罪に問われる事があるんだ??
そんな疑問をそのまま口に出すと、シャルルはがっくりと肩を落としながら言ったのだった…
「あのバカ息子は…先日私が国王陛下に呼ばれて謁見した際に付き人としてついてまいりまして……」
「おう?」
「陛下をお待ちしている間に…」
「…?」
「…席を外してたまたま廊下を歩いてらした王女様を口説いてそれを陛下に目撃され…」
「そっちかぁああーー!!!」
バシっとギルベルトは片手で額を叩いた。
ああ、金持ちで礼儀作法もしっかりとしていて…顔も良くて、性格もまあ優しい。
気のおけない仲間内だと変態だが、もちろん外ではそんなところはおくびにも出さない。
そんな悪友の唯一とも言える悪癖が、女癖の悪さである。
いや、女に限らない。
男でも美しければ良い。
フランシスは、そんな老若男女範囲内だと豪語するツワモノだ。
しかし王女様はまずい。
現在の国王には跡取りの王子はいるが、愛妻を5年前に亡くしていて、その王妃に瓜二つの王女を溺愛している。
王子よりも王女の婿に国を譲りたがっているのではないかと言われるくらいの溺愛っぷりだ。
それに戯れに声をかけたなら、死罪になっても不思議ではない。
「ギルベルト様のお力でなんとか息子を救えないでしょうか?」
とすがるシャルル。
こんな状態で国王の気持ちを動かせるって、どんなお力だよっ?!
下手すると王太子でも無理な案件だろ、これっ。
といいたいところだが、無下に突っぱねるわけにも行かず、ギルベルトはとりあえず…と、今出てきたばかりの王城へとまた舞い戻る。
そして王に再び拝謁を願った。
歩きながら、待ちながら、考える。
さあ、どうすればいい?
幼馴染としても、スポンサーとしても、今フランシスには絶対に死なれたくはない。
…だとすると…ああ、そうだっ!!!
王が再び謁見を許した時には筋書きは出来ていた。
フランシスを一緒に航海に連れていけばいいのであるっ!!
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