国王に申し出る。
フランシス・ボヌフォワを航海に連れていきたいと。
さらにフランシスは多言語を話せるので、通訳としても役に立つ。
この航海を成功させたい国家としてはそれは好ましいことのはずだ。
さらに、娘を思う親として、娘が自分のために誰かが死んだと心を痛める要因を作るよりは、仕事でどこか遠くへ行ったという形で娘から離す方が良いのではないだろうか。
もちろん、今回の航海の目的は海軍力を増強するために世界を回って、増強した海軍を世界に知らしめるという大航海になるのだから、果てしのない時間がかかる。
状況によっては遠い異郷の地で海の藻屑となる可能性だって多々あるのだ。
どちらにしてもとてつもなく苦労はするし、もう王女にちょっかいをかけにくるどころか、会う機会さえなくなるだろう。
そんなことを熱く語ると、王は渋々ながらも、その提案はかなり建設的だと思ったらしい。
すぐに連れて行け。
今すぐ城から追い出して船に乗せ、今後船がこの国に寄る時にもフランシスは船から降ろさない事を条件にならと、それを了承して、衛兵にギルベルトを引取人としてフランシスの牢まで連れて行かせた。
こうしてギルベルトは初めて地下牢に足を踏み入れた。
そして…その一つにしゃがみこんでいた悪友は、衛兵の足音にビクっと顔を上げ、すぐにその後ろにギルベルトがいることに気づくと、鉄格子に飛びついた。
「ギルちゃん、ギルちゃん、ギルちゃんっ!!助けてっ!!!」
何不自由なく生きてきたこの男が、ここまで必死なのを初めて見た。
「あ~、助けにきたから、ちっと落ち着け。
先に状況話しとく。
おまえは俺様の航海に強制連行な。
それがぎりぎりおまえを処刑させないように陛下が説得された条件だ。
この国に寄るときでもお前は船を降りない。
つまりこの国の地を二度と踏むなというお達しだ」
「うんうんうん!全然大丈夫っ!!
陸地恋しくなったら他の国で降りるからっ!!
とにかく出してっ!すぐ出してっ!!」
ギルベルトの説明に、ぶんぶんと頷くフランシス。
それにギルベルトが苦笑して頷くと、衛兵が鍵を開けてフランシスを外に出す。
そのフランシスを連れて、ギルベルトは本来は貴族は使わない裏口からフランシスと共に城を出た。
「とりあえず衛兵がお前のオヤジさんには連絡してくれてるはずだから、お前は即、自分の家に戻って1時間で身支度を終えて俺様の船に乗る。
陛下からこの地を踏むことを許されている猶予は夕方までだから、あと数時間のうちに全部終わらせねえとだし、急げよ」
もちろんフランシスが船に乗るまではギルベルトが責任を持って監視することになっているので、ギルベルトも同行。
ついでに、あれもこれもと持って行きたがるフランシスに、自宅と違ってそんなスペースはないと却下しまくるギルベルト。
最終的にはフォーマル一式のほかは普段着の着替え数枚と極々わずかの愛用品以外は、金を用意してもらって買えと、渋るフランシスを船まで引きずって行くことになった。
フランシスが船から降りれないので、シャルルは自分のほうが船まで会いに来た。
活動資金を持って……。
「このたびは、ギルベルト様には本当にお世話になりっぱなしで、大したお礼もできませんが、これから世界を回られるとのこと。
色々とご入用のものもあると思いますし、お礼も兼ねていくばくか用意させて頂きましたので、どうかお役立てください」
と、後ろに控えていた体格の良い使用人が机に置いたかばんの中にはいっぱいの金貨。
ぶっちゃけ…この北海の黒鷲号よりもよほど良い船が即金で買えてしまうほどの……
「フランの身代金みたいなもんやんな。
まあそれにしてはずいぶんとぎょうさんやけど」
と、ギルベルトの横で目を丸くするアントーニョ。
まあ確かに商人どころか貴族の子息の身代金にしても良いような額ではあるが、一応可愛いであろう一人息子の親を前にして、その子の命の代価がこんなに高くはないだろうと取れる発言はまずい。
「お前はだまっとけ」
と、すこ~ん!と軽くアントーニョの後頭部を叩いて、ギルベルトはシャルルに
「身内が失礼なことを言って申し訳ない」
と謝罪する。
が、アントーニョ自身もフランシスの悪友の1人ではあるし、シャルルもよく見知っていてその性格も知っている。
なので気を悪くすることもなく苦笑して付け加えた。
「フランシスには礼儀作法、勉強その他もろもろ、付き合いに必要なことは教えてきたつもりではあるのですが、一人息子ということもあり、フランシスにはあまり力仕事をさせたことはないので、他の船員さん達の手前もあるとは思いますが、私の親心に免じて、お手柔らかにしてやってください」
と。
こうして船と資金、両方を得て、ギルベルトの航海の第一歩が始まったのである。
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