ギルベルトさんの船の航海事情_6

「これで船も金も揃うたし、7つの海へ出発やな!」

シャルル・ボヌフォワが帰ったあと、目の前の金貨の袋に目を輝かせてアントーニョが言った。


一番それを望んでいたのはアントーニョなので気持ちはわからなくはないが、今現在、手元にあるのはブリガンダイン級の船1隻と金貨45000枚。

ただの旅ならそれでも十分だろうが、これでは外海どころかバルト海を出ることもできはしない。

それは沿岸警備をしていたギルベルトが一番良く知っている。



まずシュパイヤー商会というハンザ同盟に属する商会の船が、近頃頻繁に無断で領海を侵犯していて、もしかち合って警告に従わなければ当然国の名を背負う身としては、撃退せねばならない。

実際、ギルベルトは遭遇したことはないが、他の提督の率いる船が遭遇し警告をしたところ、いきなり攻撃行動に出て、怯んだところを逃げ去ったとの報告も受けている。

しょせん武装商船に過ぎないと言っても、こちらとしては1隻しかない船だ。
大きく傷つけられれば今後の航海にも差し支える。

だからまずこれを余裕を持って撃退できるだけの軍備を整えなければならない。

それを説明すると、

「そんなん船に乗り込んでどついたればええねん。
商人あがりの無法者くらいやったら、こっちは軍人やし余裕ちゃう?」

と、アントーニョが言うが、ギルベルトが

「あのな、向こうもたぶん大砲積んでるし、そこそこの装甲の船じゃねえと乗り込むどころか近づけねえよ。
こっちは1隻しか船がねえのに、砲撃戦はごめんだ」
と、さらに返すと、

「ほな、どないするん?
ずうっとバルト海グルグルしててもしゃあないやん」
と、唇を尖らせた。


「まあそれもそうだから、まずは金稼ぎだ。
ここ、ストックホルムから南東にあるリガの街。
その間をだな、グルグルとしばらく商品を積んで往復だな。
で、金を貯めて船を買って、船団を作れるくらいになったら武器を整えて敵に殴り込みだ。
そうしたら一気に北海、地中海を経てアフリカへ。
アフリカくらいに出れるようになったら、珍しい品も手に入るし、それをヨーロッパで売って、ヨーロッパからまた荷を積んでアフリカへ。
金がもっと貯まったらもっとでかくて丈夫な船を買って、さらにインド、東南アジアと、遠出をする。
その繰り返しで世界を1周するぞ」

「気の長い話やな」

地図を前に指差しながら語るギルベルトに気の短いアントーニョがため息をつく。

しかしおそらく、実際に動き出したらそんな先の長い話はすっかり忘れて目先のことに気を取られるのがこの男なので、ギルベルトも気にしない。

「当座はフランが大活躍。
シュパイヤー商会との戦闘以降はアントーニョに活躍してもらう感じだな」
と、2人の悪友に視線を向けて、

「ということで、よろしく頼む」
と、それぞれにハイタッチをすると、マントを翻して船長室をあとにした。



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