こうして廊下に出るギルベルトを悪友2人が追いかける。
「ギルちゃん、どこ行くん?」
「造船所」
「何しに?
「船の改造と新しい船買いにだな」
「え?ギルちゃん、稼がな船買えへん言うてへんかった?」
そう言いつつ道を塞いでいるアントーニョをサラリと避けて、ギルベルトは何もなかったかのように廊下を進みつつ
「ああ、戦えるような船はな。
今日造船所に行くのは、この船の砲台とか海兵詰所を全部取っ払って、そこに物資や積荷を詰めるようにするためと、この船よりもう少し積荷を詰める船を買うためだ。
本当は地中海あたりで売ってるナオとかがコスパ良いんだけどな。
バルト海から出られないから仕方ねえ。
ちょい割高になるけど24000枚くらいで買えるフリュート級の船を1隻買う。
で、2隻でストックホルムとリガの二国間貿易で金稼ぐ。
で、そうだな…だいたい手持ちが5万越えたら3隻目買って、同じ用に4,5隻目を買う。
で、5隻買ったらそれでしばらく稼いで、金貨が100万枚くらいになったら今度は戦闘装備にして戦いだ」
と、言ってもアントーニョにはわからないだろうが、一応説明した。
同じくついてきたフランシスの方は、商人の息子だけあって理解しているらしい。
「なるほどね。じゃ、ストックホルムで木材を買って、リガではワックスを買うといいよ。
だいたい仕入れ時期が一緒だし、よく売れる。
父さんがよくそれでやってた。まあ、今回のことで地中海に帰るらしいから、後釜として丁度いいんじゃない?」
と、アドバイスまでしてくれるのはありがたい。
本当は物品の売買の交渉なども頼みたいところだが、残念ながらストックホルムは出入り禁止なので、リガの買付のときだけは手伝ってもらおうと思う。
こうしてまず船を整え、フランシスのアドバイス通りストックホルムで買った木材をリガで売り、リガで買ったワックスをストックホルムで売る。
ひたすら売る。
そうしているうちにアントーニョもフランシスも船の生活にどんどん慣れてきて、数カ月後…とうとう目標額に達成したところで、軍備を整えて、お待ちかねの戦闘だ。
「ようやく親分の出番やなっ!!」
と、生き生きとハルバードを振り回すアントーニョ。
実はギルベルトも貿易よりは戦闘の方が楽しかったりする。
唯一フランシスは嫌そうな顔をしていたが、まあそれなら船室の奥にでもこもっていてくれれば良い。
こちらの船に敵をあげるつもりはない。
相手はハンブルグから北上してオスロ、オスロから南下してリューベックと、ユトランド半島をぐるりと一周するように航路を取ることが多いらしいので、こちらはストックホルムからコペンハーゲンに本拠地を移し、コペンハーゲンとオスロ間で軽く貿易をしながら、シュパイヤー商会の船を待ち伏せた。
そしてそう待つこともなく、コペンハーゲンの北西でシュパイヤー商会の船と遭遇。
相手はこちらの国旗を見るなり砲撃してきたため、そのまま戦闘に入る。
「はよっ!はよ近づけたってっ!!」
と急かすアントーニョ。
ギルベルトとしてもこちらの船の被害は最小限に押さえたいのもあって、接舷を急がせる。
フランはすでに船室の中でも最奥の船長室に避難中だ。
こうして大きな被害も受けずに接舷を果たすと、いよいよ移乗攻撃の始まりである。
ギルベルトも本当は許されるなら自分も敵艦に乗り込んでひと暴れしたいところだが、船長なので自重。
切り込み隊長をアントーニョに任せて、自艦の甲板から戦況を見守る。
アントーニョは自分が暴れるのも好きな男で、すごく生き生きと敵をなぎ倒しているが、ちゃんと”切り込み隊長”の意味は理解しているらしい。
ちゃんと他の船員達に指示をだしていて、実に巧みに味方を統率している。
彼の祖父は貴族でありながら海戦の天才と言われた男らしいから、その血のなせる技かもしれない。
全く危なげなく敵艦を制圧すると、テンション高く血まみれのハルバードを振りかざした。
こうして初戦は快勝して、相手の積荷は没収。
それまではシュパイヤー商会との義理があるからと、ギルベルト達とは商いをしなかった近隣の街の商人達は、利に敏い人種なのだろう。
こぞってこちらに売買契約を申し出てきた。
もちろんそれは受け入れる。
完全勝利のためには戦うだけではダメなのだ。
相手を破産に追い込むために、相手のシェア(取引先)を奪わなければならない。
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