フェイクorノットフェイク、ソレが問題だ_不安の理由

ギルベルトの友人はにぎやかな男達だった。

フランシスとアントーニョ。
どちらもギルベルトと同じく財閥の総帥の親族だとのことである。

しかしふたりとも元の性格なのか友人であるギルベルトの嫁だからなのか、気難しい態度を取るでもなく、親しみを持って接してくれた。

特にアントーニョの方は始終、アーサーを可愛い可愛いと構い倒すので正直困ってしまうくらいだった。

だって、世間知らずのアーサーだってさすがにわかっている。

ギルベルトほどではないにしても、ふたりとも世間で言うところのすごいイケメンで、おそらく非常にモテるだろう。

そんな整った容姿の男達から見れば、アーサーなんて本当にただのチンチクリンだ。
可愛いわけがない。

これがきちんとした大人の嫁ならそんなリップサービスに上手に礼を言って流すのだろうが、アーサーには無理だった。

どうして良いかわからず気まずくてギルベルトに張り付いていると、ギルベルトが気を利かせて、キッチンに茶菓子を用意しているからそれと一緒に紅茶を淹れてきてくれと、さりげなくアーサーをキッチンへ一時避難させてくれる。

そんなギルベルトの気遣いはとてもありがたいのだが、同時に落ち込んだ。

せっかくギルベルトの友人に高評価を得てギルベルトの嫁としての株を上げる機会だったのに、本当にうまく出来ない。

それでも紅茶を淹れることにだけは自信があったので、せめて美味しい紅茶でもてなそうと紅茶を淹れていると、リビングの会話が耳に入ってきた。


「…めっ………っちゃっ!かっわええええぇぇ~~~~!!!!!」

という叫び声はアントーニョのものだ。
すぐわかる。

いつもあんなテンションで彼は疲れないのだろうか
そんなことを思いながらポットに湯を注いで砂時計をひっくり返すアーサーの耳に続いて入ってきたのは、もしギルベルトに何かあった時には自分が面倒を見てやると請け負うアントーニョの言葉だった。

深い意味はないのだろう。
別にアーサーのことを特別どうのというわけでもない。

アントーニョ自身も大財閥の総帥の血筋だと言うから、アーサーの1人くらいいても邪魔にはならないし、色々と事情があるため実家を頼れないギルベルトの事情を知っていて、友人に安心してほしいとの好意からくる言葉なのだと思う。

良い友人関係を築いているのだろう。
心温まる光景といえば言えるくらいだ。

ただアーサーはそれを聞いて、不安に思った。

ギルベルトは優しいからアーサーが1人では生きていけないことを知っているからこそ、最後まで見捨てずに面倒を見てやろうとしているのだと思う。

でも放り出す先があると思えば、放り出されてしまうのではないだろうか……

だって父親がおかしくなってから優しくしてくれていた他の家族だって、結局はアーサーをギルベルトの元へと連れて行ったのだ。

また同じように、誰か引き取って面倒を見てくれるならと、捨てられるかもしれない。

そんな時、アーサーには今回と同様、拒否権なんてまったくないのだ。


アーサーは唇をぎゅっと噛み締めて、泣くのをこらえた。
そうしないときっと泣いてしまって、そんな顔でお茶を運ばれてきても皆が困る。

そうして他のことをシャットしているかのように一心に凝視していた砂時計の最後の砂がさらりと落ちた。


そこで震える手でティーポットにかぶせていたティーコゼを取り除いてティーポットの取っ手に手をかけたその瞬間…


──…死なねえからっ!!

と、珍しく感情的なギルベルトの言葉が聞こえて、アーサーは一瞬手を止めた。

そしてその後に続く言葉、

「俺様はアルトを嫁にして、ずっと守るって約束したからなっ。
意地でもアルトよりも早くは死なねえ。
ちゃんとあいつが年取って最期を迎えるのを看取ってから死ぬから大丈夫だっ」


そんなギルベルトの言葉に、アーサーは今度こそ泣いた。
堪えていた分、ポロポロと涙があふれでる。

ああ嫁と唯一絶対一生一緒の人間だと認められてたんだ

そう思うとホッとして、泣きながらもいつも以上に手はゆったりと紅茶を淹れていく。

そしてちょうど4杯淹れ終わって持っていこうとした時、運ぶのを手伝ってくれようと思ったのだろう。
キッチンへ入ってきたギルベルトが泣いているアーサーを見つけて

「え?アルトどうしたっ?!何かあったのかっ?!どこか痛くしたか?!」
と、慌てて駆け寄ってきてだきしめてくれた。

その体温とギルベルトの匂いに包まれてアーサーは心底安心して、

「なんでもないホッとしたんだ。
最期まで看取ってくれるんだって聞こえてきたから
と、正直にこぼすと、ギルベルトはポカンと呆けて、それから

「当たり前だろ。
俺様はちょっとやそっとじゃ死なねえからな。
絶対にアルトより一分一秒でも長く生きて、1人で寂しい思いをさせたりはしないようにしてやるから」
と、ポンポンとなだめるように背中をかるく叩いた。


アーサーが本当に恐れていたのは死別ではないのだけれど、それでもずっと一緒なのが嬉しいので、もういいかと、アーサーは不安を感じていた本当の理由を告げる言葉を飲み込むことにした。



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