自分でも何が起こったのかわからない…。
ただ綺麗なドレスを着たのが楽しくて、ガラス戸越しに部屋を見た時に、室内を埋め尽くす花の綺麗さに感動した。
身体があつくて、むずがゆいような感じ。
どんどんその感覚が広がっていった。
そして気づけば大人な男女…恋人…夫婦のするようなことをギルとして意識を失い、次に目が覚めた時には憑き物が落ちたように、元に戻っていた。
あれはなんだったのだろうか……
ギルはあのあと自分が暴走したのだと謝ってくれたが、アーサーの記憶だとおかしくなったのはギルではなく、アーサーの方が先だ。
ギルはむしろ最初はおかしくなったアーサーに戸惑っていたように思う。
最中はとにかく自分が自分でなくなっていくような感覚が怖くて泣きわめいた気がするが、それでも心の奥底ではギルに触れて欲しいと感じていた。
自分の中にギルの何かを残したい……もっというと、ギルとの子が欲しいと思った。
そんなこと、絶対に無理なのに……
…というか、それが不可能だということが、今、こうして全てにおいて完璧で、周りが羨望するような相手と結婚出来ている理由だと言うのに。
だから残ったのは気怠い感覚と受け入れていた部分の鈍痛…そして、おそらく最中に興が乗って噛まれたらしいうなじの痛痒さ…
それだけが夫婦として愛された証というのは普通は悲しいことなのかもしれない…
でも自らのルーツをたどった時に、恋人と引き離されて、女であるがゆえに愛のない相手との交わりで自分を産まされて死んでいった母を思い出すと、それでも好きな相手と一緒になれて自分は幸せなのだろうとアーサーは思った。
それに、たとえなにかの力でおかしくなった結果だとしても、このままなにもない状態よりは、相手に愛される経験ができただけ幸福だ。
まあ…その時の自分を思い返すと、すごく恥ずかしいのだけれど…。
なんとなくそんな羞恥心からぎこちなくなってしまう自分に対して、ギルはさすがに大人だけあって態度を変えることもせず、相変わらず優しい。
身体を重ねれば本当の夫婦になれる…そう思ってきた身としては、その変わりのなさはどうやっても性別や年齢を超えられないのだ…と、思い知らされている気がしないでもないのだが、夫婦という単位以外、ただの家族だといつかはバラバラになる日もくるかもしれないと恐れるアーサーと違って、ギルベルトにとっての家族は一生一緒にいるものらしいので、それもまあ、絶望するようなことではないのだが…
そう、もしその言葉が真実であるならば…。
それでも、アーサーにとってこれまでの世界というものはあまりに不確かなものだったので、ギルベルトにとっての唯一無二の座という確かな地位が欲しい。
そんな風に不安に思ってしまうのは贅沢なのかもしれないけれど……
でも不安なのは仕方のないことなのだ。
だからアーサーは今日も名前だけではなく中身も伴った、ギルベルトの唯一である”嫁の座”を手にすべく精進するのであった。
身体をかさねてもギルベルトは全く変わらなかったと言ったが、それは正確なところではないかもしれない。
あの日の翌日、ギルベルトは自分の古くからの親しい友人たちを別荘に招待してアーサーを紹介したいと言ってくれた。
これは一歩前進したのではないだろうか。
頑張らねばっ!!
夫の友人に認められてこその嫁だ!
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