はしゃぐアントーニョ。
それを押さえるフランシス。
招いた別荘でアーサーと並んで出迎えたら、もう想像していた通りの光景だ。
なにしろ色が白く目が大きくまつ毛が長い。
非常に幼く可愛らしい顔立ちをしている。
本能で生きている、子どもが好きすぎる男、アントーニョがもろ好きそうな容姿だ。
はしゃがないほうがおかしい。
一方でアーサーはというと、アントーニョの勢いにビビっている。
人慣れない猫そのものの性格なのだ。
いきなりグイグイくるタイプには全力で警戒する。
言葉でだけは『いらっしゃいませ』というのだが、態度と表情はどうみても言葉の真逆だ。
アントーニョのここは空いてますよ?とばかりに腕を広げるアントーニョから身を隠すようにササッとギルベルトの後ろに隠れてギュッとギルベルトのシャツを掴んでいる、
が、ギルベルトからすると、それがめちゃ可愛い。
…ああ…俺様の嫁、可愛くね?
じ~んと感動するギルベルト。
そして機嫌よく、
「まあ、あがれよ」
と、ギルベルトがドアの鍵をかけてリビングに向かう間も、アーサーはカルガモのヒナのようにギルベルトのシャツを掴みながらぴったりとついてくる。
リビングについてからも、
「親分、怖ないよ~。こっちおいでぇなぁ~」
と、言うアントーニョとフランシスの2人の座る正面のソファに座っているギルベルトにぴったりとくっつくというよりしがみついて、じっと警戒する子猫のようにギルベルトのシャツに爪を立てていた。
「アルト、紅茶淹れてきてくれるか?
菓子もテーブルに用意してあるから」
と、全力で緊張するアーサーにギルベルトが言うと、アーサーはややホッとしたようにうなずいて、そそくさとキッチンへと消えていった。
「…めっ………っちゃっ!かっわええええぇぇ~~~~!!!!!」
その背中を見送ったアントーニョの漏れ出した心の叫び。
「知らん人間を前に全身で緊張して警戒しとる子猫みたいやんなぁ?!!」
と、身を乗り出すアントーニョに、ドウドウと、それをなだめるフランシス。
「ギルちゃん、安心したってなっ!
もしギルちゃんになんかあったとしても、あの子なら親分面倒見たるわっ!」
と、さすがKY。いくら政略結婚とはいえ、新婚の人間に言うにしてはアレなことを言い出すが、そこでギルベルトは考える。
確かに…アーサーは境遇的に一人にしたらまずい。
自分に何かあったらあとを託してやる相手が必要なのは確かだ。
そういう意味では、そんな深い事情は全く考えず、単に自分の本能と欲求に従った発言ではあるが、アントーニョの言葉は本来安心材料ではある。
しかし自分が亡くなったあと…と、その言葉を踏まえた未来を想像した瞬間、耐え難い不快感が心の中を走った。
嫌だ…
自分以外の腕で守られて、自分以外の腕の中で安心してくつろいでいるアーサーを想像すると、腹の奥から怒りのような感情が沸き起こる。
そしてそれは理性的で感情を抑えることに関しては定評のあるギルベルトにしては珍しく、おもいきり表情に出ていたらしい。
フランシスが青ざめた。
「ぎ…ギルちゃん?…冗談だからねっ?
トーニョが気分で考えなしな事言うのはいつものことだし……」
「考えなしちゃうやんっ。
親分ほんとうに面倒みたるで?」
「も~~!!トーニョ、ちょっと黙ってっ!!」
──…死なねえからっ!!
と、二人のそんなやりとりを遮ってギルベルトが言った。
「俺様はアルトを嫁にして、ずっと守るって約束したからなっ。
意地でもアルトよりも早くは死なねえ。
ちゃんとあいつが年取って最期を迎えるのを看取ってから死ぬから、大丈夫だっ」
たぶん辛い。
可愛い自分の被保護者が死ぬのを看取るのは、何歳になっても、年をとっても、気が狂いそうなくらい辛いと思う。
でもそれならなおさら、相手にそんな思いをさせられないし、自分以外の誰かにアーサーを託して死ぬのなんて絶対に嫌だ。
今までは目の前の事だけに追われてそんなことを考えてもみなかったが、相手をずっと守るというのはそういうことだと改めて思う。
1分1秒でもいい。
アーサーより長く生きてアーサーが息を引き取るその瞬間まできちんとまもってやるのだ。
そう主張すると、普段なら自分を押し通すアントーニョが、
「ギルちゃん、本当に本気なんやなぁ。
せやったらええわ。親分、ギルちゃんの代わりやなくて、ギルちゃんがお嫁ちゃんより早く死なへんでもええように、色々協力したるわ」
と、しみじみと言って胸を叩いて請け負った。
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