最終兵器なはずの悪友たちを呼び出したのは、それからたった2日後のこと。
何がきまずいって、あの日の式もどきのせいだろうか…それまでは無邪気にじゃれついたり甘えてきたりしていたはずのアーサーが、まるで思春期の少女のように恥ずかしそうに微妙な距離を取るのが……
アーサーは籍をいれたからには完璧な嫁に！！と、斜め上の方向の努力をしてはいたが、それも幼子のままごとを見守る親のような気持ちでみていた。
だって、恋人同士の機微とか全くわかっている様子はなかった。
はっきり言ってしまえばそこに色気のようなものは存在していなかったと思う。
とにかく無邪気に”お嫁さん”ならやるのだろうと思われることを、一生懸命真似しているだけという感じだった。
だから色めいた羞恥みたいなものはまったくなく、それを見る側もただただ可愛いなあと微笑ましく思っていたのである。
ここで始める予定だった新婚ごっこというのも、本来その延長線上の、はっきり言ってしまえば、本格的なおままごとのはずだった。
そしてこれまでもこれからもずっと、可愛い子ども、可愛い弟、可愛い後輩として一緒に生きていくのだと思っていたのだが、その関係があの時を境に変わってしまった気がする。
嫌いになったわけでもないし、気持ちが小さくなったわけでもない。
ただ、そんな風に恥ずかしそうに接して来られると、妙に照れてしまう。
いずれは慣れるのだろうが、それまでこんな風に閉鎖空間で完全に2人きりは辛い。
なにしろギルベルト自身、恋愛経験が多いとは言えないので、こと、相手を恋愛的な意味合いで意識をしだすと間が持たない。
ああ、こういう時、息をするように愛を語っているラテン系の悪友2人ならどうするだろうか…と思った瞬間、もうそれしか頭になくなった。
ちょうど翌日は週末でもあるし、そろそろ紹介しても良い頃だろう。
悪友たちの都合については……学生時代におもいきり恩を売ったので、それを返してもらうということで…
ということで、配慮するのは可愛い可愛いお嫁さまの都合だけである。
「ア～ルトっ！」
と、食後にリビングで刺繍を刺しているところに声をかければ、ビクッと硬直するアーサー。
その反応にも気づかないふりで、ギルベルトはことさら今までのように気のおけない口調で
「あのな、前に言ったと思うんだけど、俺様の学生時代からの悪友2人、アルトのこと紹介したいしここに招いて大丈夫か？」
と言うと、アーサーは少し考え込んで、それから結局うなずいた。
「…その間は？嫌なら別に断っても大丈夫だぜ？」
ギルベルトに嫌というのが苦手なアーサーのことだ。
もし遠慮しているなら…と思うと、アーサーはこれ以上なく真顔で
「いや…夫の友人をきちんともてなすのも、よ、…嫁のしごとだからなっ。
ただ、初めての来客だから、緊張するなとおもっただけで……」
と言う。
そうか…斜め上の嫁修行はまだ続いていたのか…
久々にそんな部分を見た気がして、ギルベルトは思わず小さく吹き出した。
「なんだよっ？！」
「いやっ…可愛いなぁと思って。
大丈夫。俺様が昔から勉強とか見てやったおかげで今がある連中だし、細かいことも気にしない奴らだから、ほんと気を使わないでいいぜ」
単に小さなきっかけが必要だったのかもしれない。
もともとの素のアーサーが垣間見えれば、そこからはなんとなく自分のペースが戻ってきて、ギルベルトはいつものようにグリグリとアーサーの頭を撫で回す。
「なんだよっ！俺はちゃんと嫁なんだからなっ！」
とぷくりと膨れる様子も可愛らしくて、結局互いに互いが緊張しているのをなんとなく感じて緊張していたのかと、今更ながら気づいた。
まあ、別に大丈夫な気がしてきたが、悪友たちは呼ぶと言ってしまったので、呼ぶことにして、ギルベルトは2人にメールを送った。
そして冒頭のようにその翌日、例の結婚式ごっこの2日後に、悪友2人が呼び出されて、ギルベルトの別荘を訪れたのであった。
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