だが、おそらくリカバリはできたのではないかと、ギルベルトは思っている。
とにかくあのあとアーサーをかかえあげて2人でバラの花をたっぷり浮かべた風呂に入って身体を清め、アーサーはウェディングドレスよりは簡素だがそれでも綺麗なレースをあしらったミントグリーンのイブニングドレスに着替えさせて、ギルベルト自身はタキシードのままエプロンをつけて用意しておいた料理の盛り付け。
その間、花嫁には少しリビングで休んでいてもらった。
その中央には食べ切れるようにと小さめに…しかし形は3段になった華やかな飾りのウェディングケーキ。
まずシャンパンで乾杯して、それを2人ではしゃぎながら食べる。
そうして夜ねるときは、前日もこれまでも一緒にねてきたはずなのだが、あんなことがあったあとだとふたりともきまずくて、しかしこうやって、本来致す時の使用率が一番高い場所に横たわっても、全くそんな気分にならないのが不思議だった。
アーサーは居心地悪そうにしばらくゴソゴソしていたが、結局、疲れたのかコトンと糸が切れたように眠ってしまう。
そこでギルベルトはそっとベッドを抜け出して廊下に出ると、スコットに連絡をとった。
「こんな時間に悪いな。
どうしても確認しておきたいことがあった」
夜の11時。
アーサーの話によるとやや社畜気味という長兄は、予想通り普通に起きていたらしい。
『ああ、普通に起きているからかまわない。何かあったか?』
と、極々普通の口調で聞いてくる。
その平穏な様子に、おそらく末弟をとりあえず避難させて心の平安を得ているところをぶち壊して悪いな…と心底思いつつ、ギルベルトは今日のことをすべて包み隠さず話した。
途中でコーヒーか何かを吹き出しかけてむせたような咳が聞こえてきたが、さすがにトラブル慣れはしているのだろう。
スコットは立ち直りは早いらしい。
──やっちまったのか……まあ、しかたねえ。男だしまだ良いか…
と、おそらく独り言なのだろう。電話の向こうでボソボソとつぶやいたあと、
『とりあえず…アレルギーの線はないな。
アレルゲンがそこらにあるのにひとりでに収まるわけがねえ。
てことは…考えたくないんだが…前回の誘拐のさいに、外見上なにも変化がなかったからまだ何もされてないと思っていたが、くそオヤジがすでに何かやりやがった可能性もある。
そのあたり、あの日にラボにいた研究者を早急に探し出して問い詰めるから、それまでは愚弟はなるべく外に出さない方向で頼みたい。
本当に悪いんだが、頼む』
と、とりあえず通話を終えた。
自分も長子でなければ会社を継ぐのに邪魔になるかもとか言われて監視されて結婚相手を決められてというような面倒はなかったのだろうが、あっちの長子はそれ以上に大変そうだ…。
ギルベルトは心からスコットに同情した。
まあそれでも彼はギルベルトから話を聞いたこの瞬間から、ことの対応に動くのだろう。
それに比べたら、嫁と別荘で楽しく過ごすのが仕事という自分は恵まれている。
いや…下を見れば的合戦をしても仕方ないのだが……
とりあえず…状況がわかるまではなるべく人混みは避けなければならない。
ということは、ほぼこの別荘で過ごすのが一番だ。
幸いにしてアーサーはインドア派なので、買い物はネット。
刺繍やレース編みなど手芸に飽きたら、庭にはやや小さめではあるがプールもあるし、一緒に料理に勤しむのも良いかもしれない。
それでも時間を持て余したら……最終兵器、悪友召喚だ。
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