ギルベルトが帰宅すると、リビングのソファに寝かされていて、その正面でアントーニョが座っている。
だからギルベルトはその状況を見て何かあったのだろうと、青ざめた。
ギルベルトがリビングに入ってきた時には、アントーニョは何か考え込んでいて、ギルベルトの姿を認めると、少し不思議そうな不可解そうな顔をギルベルトに向けていった。
「なあ、ギルちゃん。
自分らな、やることやってるんやんな?」
「はあ??やることって…」
あまりに唐突な質問に、ギルベルトはぽかんと口を開けて呆ける。
「夫婦でやること言うたら一つしかないやん」
「あ~…うん…まあ、…そう…だよな……」
飽くまで天気の話をするようにあっけらかんとそんなことを言うが、ギルベルトはあまり恋愛関係は得意ではないので、どこか気恥ずかしい。
が、アントーニョの顔は別にふざけた様子もちゃかしている様子もないので、その会話に何か意味があるのだろう。
「…やったと言えば…やってるけど……それがなにか?」
「…初めてやったとかは…女の子やないからわからへんよな?」
「いや?普通に初めてだと思うけど?
本人すげえ戸惑ってたし…アルトはその手の演技できるタイプじゃねえ」
「ふむ…」
「…なんだよ、一体。
それが今アルトが寝てんのと関係あんのか?」
アーサーが寝ていることに関して何かあるのだろうとは思うものの、アントーニョの様子を見ると、別に緊急を要する事態には見えない。
しかも謎な質問。
さすがに何をいいたいのかわからずに首を傾げていると、アントーニョはやっぱり複雑な表情で立ち尽くすギルベルトを見上げて言った。
「あのな…ギルちゃん。
落ち着いて聞いたってな?」
「おう」
「親分が来たときはな、お嫁ちゃん起きとったんや」
「おう?」
「土産に持ってきたトマトな、生なら普通に食べれてん。
でも火ぃ通したら匂いがダメやって、戻してしもうた」
「そうか…」
「でな、話聞いてみてんけど、匂いがすごく気になったり、眠かったりダルかったりとかな…なんや、うちんとこの女の子が言ってたんと、ごっつ似てる気ぃしてな」
「?」
「たまたま頼まれて買うたんやけど要らんようになった検査薬持っとったから、ありえへんよなぁと思うたんやけど、使ってみてもろたら、陽性やってん」
「…???」
検査薬??なんのだ???
と、きくまでもなく投げてよこされるブルーと白の箱。
それを見て、ギルベルトの頭の中にはますますハテナマークが飛び交い始めた。
「ちょ、待てっ!
アルトはこんな可愛い顔してるし、やった時は確かにごっこ遊び的にドレスとか着させてたけど、一応性別は男だぞ?!!」
「それはわかっとるけどな。
せやから親分もないやろ思うてんけど、なんやそうなんちゃう?とか思うてしもて、実際こういう結果やったから…。
アーティはめっちゃ動揺しとって…」
「そりゃ動揺するだろうよっ!!」
ギルベルトだって自分が子どもを作る可能性は考えても、自分が子どもを身ごもるなんて思ったことはない。
男に生まれたからには誰だってそうだろう。
だが、アントーニョが言う動揺はそういう理由ではないらしい。
「あのな、ギルちゃんは子ども出来ちゃあかん?
アーティは出来へんはずの自分に子どもが出来たかも言うことより、ギルちゃんの子どもが出来たことのほうに動揺しとった気ぃがするんやけど……」
「あ~そっちか…」
男であるアーサーに子どもが出来たことのほうが大変なことだとは思うのだが、まあ考えてみればそっちの問題もあったか…と、ギルベルトは今更ながらに思い出した。
というか、アーサーと籍を入れる時にソレについては話したと思ったのだが、まあアントーニョがそんな細かい話をちゃんと聞いているわけがない。
「俺様、アルトと籍入れることになった時にお前ら2人には話したよな?
本来異性愛者だったはずの俺様がなぜアルトと籍入れることになったかというと…だ、うちの副社長が財閥の跡取り問題でもめないように、俺様に子どもを作らせたくなくて、子どもが出来ない前提の見合い相手を大量に探してきて、その中で選んだのがアルトだったんだ」
「つまり、あの子とやったんは、子どもができひんからで、できるんやったらやらんかったってこと?
そのアホはどうでもええねん。
跡取りもどうでもええ。
ギルちゃん自身はデキたらこまるん?」
「…えっ………?…」
その発想はまったくなかった。
…が、考えてみればそれが一番重要な気がする。
「…本当に…お前、核心つくよな…」
普段何も考えていないようでいて、実際何も考えていないのだろうが、アントーニョはいつも一番重要な事だけをピンポイントで拾い上げる男だ。
そんな風にそこに感心していると、
「親分のことはええねん。
それよりどうなん?
アホがダメ言うたらギルちゃんもダメなん?」
と、言われて、ギルベルトはあらためて考えた。
「いや?全然。
ちょっと面倒なことにはなるなぁとは思うけど、子どもは好きだしな。
アルトと籍を入れた時には、これで自分の子どもは一生持てないんだなぁってちょっとだけ残念に思ったくらいだ。
でもアルトが俺様の弟で子どもみたいなもんだからまあいいかって思い直したんだけどな。
両方手に入るんなら、それにこしたことはねえとは思ってる」
アントーニョ相手に嘘をついても仕方ない。
思っていたそのままを伝えると、アントーニョは
「それやったらそう言うてやり。
パニック起こしすぎて気ぃ失ってもうたから」
と、ちらりとアーサーの方に視線をむけた。
ああ、なるほど、納得だ。
身体的にという意味ではなく、メンタルの問題か…。
本当に検査薬が正しいのかということはおいておいて、どちらにしても条件によってアーサーを突き放したりすることはないということを、きちんと伝えておいてやらないと、戻る場所のないアーサーをひどく追い詰めることになる。
その上で、まず、本当に信じられないことだが、アーサーに子どもができているかどうかを確認しなければならない。
本来ならありえないことなので、確認する場所も考えないと大騒ぎになってアーサーを傷つけるだろうから、そのピックアップも慎重にするべきだろう。
もしそれが間違いではなかったとしたら、さらに大変だ。
どうやって生むのか…。
普通に産めるのか、帝王切開になるのか…
その時の医者は?
最悪、普通に産めるのならギルベルトがこれから勉強をして自宅でということもできなくはないが、帝王切開になるなら医者と場所が必要だ。
さあ…どこから始めればいい。
ギルベルトが必死に考え込んでいると、やがてアーサーが目を覚ました。
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