もうなにをどこかから突っ込んでいいのかわからない。
だってありえない。
自分は男だ。
「知っとるよ」
とりあえず前提としてありえないと間違いを指摘しておこうと思ったのだが、あっさりとそう返されて、アーサーは途方にくれた。
「えっとな…なんちゅうか…親分、勘がめちゃええねん。
親分とこのじいちゃん、カエサル財閥のボスなんやけどな、その勘だけで財を起こした人物なんやけど、そのじいちゃんにそっくりやって言われてるくらいにな。
で、もちろん自分が男の子なんはギルちゃんに聞いて知っとるし、それでこどもってありえへんて言うのは百も承知なんやけど、親分の勘がな…そう言うとったっていうか…。
話聞けば聞くほどそんな気がして仕方なかってん。
で、たまたま知り合いに買うといて言われて渡すの忘れとった検査薬が手元にあったから、まあいくら勘が告げとってもありえへんかもなて思うて使ってみてもうたんやけど……」
──アントーニョの発想はすごく突飛に見えて、実は真実をついてるんだ…
そう言えばギルが以前そんなことを言っていたが、突飛すぎだろうとアーサーは思う。
だってありえなさすぎるだろう…
もうその言っていることの無茶苦茶さに気を取られていたアーサーだが、続くアントーニョの言葉に真っ青になることになる。
「ものすごい確率やけど、これ、陽性ってことは、アーティ、おなかに赤ちゃんおるってことは、1人じゃできひんし、ギルちゃんの子ぉやってことやんな?
てことは…やっぱりギルちゃんと相談せなあかんやつやん」
そうだっ!!それだっ!!!
「ダメだっ!!ギルには言わないでっ!!!」
もう信じられないが本当に子どもができているとしたら、絶対にギルに知られるわけにはいかない。
だって、”子どもが出来ない”ということが、これといって取り柄もないアーサーがギルベルトのように完璧な人間の伴侶に選ばれた理由なのだ。
ありえない。
ありえないことなのだが、万が一にでも本当に子どもが出来たなんてことになったら、そばにいられなくなってしまう。
そんなの嫌だっ!!
嫌だ、嫌だっ、嫌だっっ!!!
「言わないでっ!!頼むからっ!!!」
必死にすがるアーサーに、アントーニョは
「せやかて、このまま言うわけにもいかんやん」
と、やや戸惑い気味に言う。
「ダメだっ!万が一にでも子どもできたらダメなんだってっ!!!」
パニックのあまり空気がうまく吸えなくてクラクラしてくる。
「ちょ、落ち着きぃっ」
と言うアントーニョの声がなんだか遠い。
息苦しくて、音がなんだか遠くて、まるで水の中にでもいるような感覚だ。
もがいてもがいて…苦しくて、悲しくて…遠いギルの幻に必死に手を伸ばしたところでアーサーの意識は途切れていった。
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