スコットに電話。
コール音ふたつでつながった瞬間、スマホの向こうの相手はそう言った。
もしそうなら、少し嬉しいとギルベルトは思った。
アントーニョから話を聞いてもギルベルトはまだ半信半疑だった。
だが、本当だといいなと思っている。
だってアーサーと暮らし始めて、家族と暮らす楽しさを自覚したあたりで思ったのは、子どもが持てないのは少し残念だなということだったのだ。
そんな僅かな失意の気持ちもアーサーがいるからまあいいかと流れていったのだが、アーサーも子ども両方手に入るとなったら、それに越したことはない。
アーサーは拒絶されるのではないかと泣いたが、ギルベルトにとってはあまりに良い事づくしで、本当に子どもができたのだとしたら喜ぶ要素しかない。
むしろこれがなにかの間違いだったとなった時に、過度にがっかりしないように気をつけなければならない。
アーサーはなんにせよ自分に失望されるというのを過剰に恐れているので、ストレスを与えすぎることになる。
そんなわけで、今回の普通はありえない事態について話そうと思って電話をかけた時に、向こうも何やらわかった事があると言われて、ギルベルトはこれが本当のことなんじゃないかと期待した。
思い切り期待した。
「ああ、そうなのか。
じゃあ、こっちの話は長くなりそうだし、そっちの要件から頼む」
そう言うと、よく世間様であるような無意味な譲り合いをすることもなく、スコットは、
『そうか、じゃあ俺から話す』
と、話し始めた。
『報告しておく。
以前愚弟が誘拐された時にラボにいた研究者を1人捕まえて、かなりのことを聞き出すことができた。
まず最初に…オヤジは愚弟のDNA鑑定をしたらしい。
結果、愚弟の父親は俺らの親父ではないとわかった。
誰というのはわからないが、状況からすると親父が引き離した愚弟の母親の恋人だろうな。
親父が彼女を手に入れた時に、おそらくもう愚弟が腹にいたんだろう』
初っ端からそれで、ギルベルトもさすがに驚いた。
そんなギルベルトに構わず、スコットは淡々と続けていく。
『…ってことで、愚弟と言ってはいるが、実は俺らと愚弟の間には血の繋がりはないということが判明したわけだが…まあ、それはいい。
戸籍上は兄弟だし、親父がやらかしたことを考えるといやでも俺が面倒をみなきゃならん相手だというのは変わらん』
と、その言葉に、ギルベルトは苦笑した。
言い方や発言は優しげとはいい難いが、スコットはいいやつだと思う。
それを実際に口にすると、
『”いいヤツ”じゃなく、”都合のいいヤツ”ってやつだな』
と、自虐的な答えが返ってきて、思わず吹き出した。
すると
『いいから、本題はそこじゃねえ。さっさと続けるぞ』
と、面白くなさそうな声が返ってきて、了解すると話が続けられる。
『ここからは絶対に他言無用というか…世間様にバレたらうちが破滅するから言ったら殺すぞ』
と、そこでいきなりすごい発言が飛び出してきた。
「おう?まあ俺様はアルトが健やかならなんでもいいし、戸籍上の自分の実家が破滅したらアルトが嫌だろうから言ったらやばいことは言わないけど?」
と、ギルベルトが答えると、一瞬の間……
──それは…そっちの条件から逸脱することになっても…か?
探るように言われて、ああ、もしかしてソレに関することか…と、ギルベルトは半分革新してやや期待を強くしながら言う。
「あ~前言撤回。
先にこっちの要件話しておくわ。
なんだかな、アルトの体調が悪くて妊娠検査薬なんて試してみたら陽性だったんで、”そんなこともある”んだったら、子ども生む環境整えなきゃなんねえんで、有り得る話なのか、生むとしたら医者もいるだろうし協力してもらえねえかと思って連絡してみたんだけど…」
そう言うと、電話の向こうで息を飲む気配がする。
『………………………”子どもができない”って条件は良いのかよ?』
「あ~、それアルトにも言ったんだけどな。
なんだか副社長が持ってきた釣書見た限りそんな意図が見受けられた気もするけど、俺様はそんなこと了承してないし、俺様自身はあっちが持ってきた大量の釣書の中から、一番気に入ったやつを選びだしただけで、なんの条件もつけてねえよ」
ギルのその言葉に、心底安堵したようなため息。
「本当に…愚弟の相手がお前みたいにこだわりのない男で良かったよ…」
と、しみじみとした口調で言うと、スコットは、まあ驚かないで聞いてくれ…と、話し始めた。
0 件のコメント :
コメントを投稿