フェイクorノットフェイク、ソレが問題だ_急展開1

『あ~たぶん、なのは、拉致った時の研究者の話だと、本来なら月のアレが始まるのは今月からくらいの予定だったからだろうな

リチャード・カークランドと分かれてすぐ、スコットに電話を入れて呼び出された旨と言われたことを話したなら、そう、答えが返ってきた。

なるほど。
女性特有のソレが来れば、普通何事かと思う。

『まあ、愚弟は思いがけず適応性があって、投薬後すぐくらいに効果がでてしまったみたいだがそれが良かったのか悪かったのか

「今後のあっちの動きとして考えられるのは?」

『強硬手段は、まあマンションから出ないかぎり無理だけどな。
出る時は気をつけろよ。
あとはアレか、タレコミか

ああ、それもあった

ギルベルトの子どもが生まれるのを阻止したい副社長と組まれると厄介だ。

現在はギルベルトはその下で働いているわけだから、仕事と称して変に動かされる可能性は多々ある。
かといって、いま急に会社をやめたいと言ったなら、子がデキたことに勘付かれかねないし、そうなれば面倒なことになる。

資産はそれなりにあって働かなくても食べていけるギルベルトでも、バイルシュミット財閥と真っ向から対立するのは少ししんどい。

もちろん家族のためならそれもやむなしだが、しんどいのが自分だけに収まらず、妻子を巻き込む可能性もあるから、それは避けたいと思う。

どうでもいいから流してしまって、副社長に協調して投げやりな人生を送るつもりだった独身時代の自分に比べれば、それでも戦おうと思うのはすごい変化だとギルベルトは思うわけなのだが

「そうなったら最悪、実家を踏み潰せるよう画策しねえとな
出来ればそっちを巻き込みたくねえし、上手に逃げてくれ」

『いや、こちらも似たようなもんだ。てか、もっとひどい。
とにかく早急にクソ親父を退陣に持ち込まねえと、今回の愚弟への投薬は会社潰すだけじゃなく、オフクロと弟たちの人生を潰しかねないからな。
もう身内から犯罪者はとか言ってねえで、軽犯罪を探してそれで牢に放り込んだほうが早い気がしてきた』

ああ、そうだった。
お家騒動どころの話じゃない。

カークランド家は刑事事件と社会的制裁で潰される危険性が多々あるのだ。

本当にお疲れ、不憫な長男と言ったところだろうか
電話の向こうで疲れたようなため息を吐き出すスコットに、ギルベルトは心から同情した。


自分たちは利害が一致する。
とにかくリチャード・カークランドの権力を取り上げること。
それが自分たち2人の急務である。

カークランド家より格上の財閥とは言え、跡取りの座から極力遠ざけようとされている自分には、その力はないのだが……

ああ、仕方ねえな……

自分は下手に動けない。
実家から何かしようとすると、藪をつついて蛇を出すことになりそうだ。

とすると圧力をかけるには、その他の人脈か……

そこで

「急に悪いな、俺様、お前に頼みがあるんだけど……

と、電話をかける先は悪友の片割れ。

現在まだ父親がトップにいるわけだが、一応唯一の跡取りで、すでに本社の社長の座を譲られているヤツなら、権力を行使しようとすればそれなりに行使できるはずだ。

緊急事態だ、使えるものはすべて使おう…
そう思ったわけなのだが、なんとタイミングの悪いことに、こちらもいきなり修羅場になっていたらしい。

電話の向こうの悪友は涙声で鼻をすすっている。

『ごめんね、お兄さん余裕ない
ホントはギルちゃんにも連絡しようと思ってたんだけど……

「フラン?何があった?大丈夫か?」

自分の方も色々ゴタゴタはしているが、普段はやたらと泣き真似はするものの、別に本気ではなく、恵まれた環境で余裕がある分、いつも笑顔のフランシスが本気で泣いているなんて、初めてのことだ。

「なあ、俺様なにか出来るか?
アルトがああいう状態だから出来ることも限られるけど、それでも出来そうなことならするぞ?」

自分も修羅場真っ最中なわけだが、さすがに心配になってそう声をかける。
それにフランシスが嗚咽をこぼした。

ああ、なんだかわからないが、今のフランシスならまだアントーニョのほうが話を聞けるかもしれない。

そう判断して、ギルベルトは

「な、そこにトーニョいるか?
いるなら代わってくれ」
と、言う。

同じ会社でフランシスの下で働いているのだから、そばにいることもあるだろうし、いないようならアントーニョの携帯にかけなおそうそう思ったのだが、予想通りいたらしい。

『オーラ。ギルちゃん、助かったわぁ~。
あんな、フランの父ちゃん、朝に事故で急死してん。
でな、俺らみたいに跡取り問題はないねんけど、重役らが今後の放心とかで色々揉めとるし、なかには取引先とかに駆け込んだりとか、内部がガタガタになりそうな状態やねん。
せやから、ほんまどないしよ思て……
なあ、ギルちゃん、ほんま転職してこれへん?
信用できるあたりでこれなんとかできるん、ギルちゃんくらいしか思い浮かばへん』

なんとっ!
いざとなったら駆け込もうと思っていた先がガタガタにっ?!

それはもちろん親を亡くした悪友の心が心配というのもあるが、それだけじゃない。
自分も無関係とは言えない。

かといって今副社長を刺激するわけには……

いや?これはもしかしてチャンスなのでは?!

と、そこでギルベルトはひらめいた。

そうだ、フランシスには悪いが、これはギルベルトにとって大きなチャンスだ。
今行動せずにいつ行動する?!

そう思いついたとたん、脳内で計画がバババッとはじき出された。

そしてギルベルトは走り出す。



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