お兄さんは頭を打ったことにしました
これで自分の役割は終わるのかも知れない … 今日この部屋から帰るのは自分一人かもしれない … そう思うと泣きそうだったが、それでも別宅で悲しそうに泣くイギリスを思い出したら、やっぱり自分が辛い方が良いと、思う。
「ボンソワ、坊ちゃん。 プーちゃんの側の話だけ聞いて決められちゃうのは不公平かなと思って、お兄さんの話も聞いてほしくて呼んでもらったんだよ」
ルビーのように真っ赤な目が怒りに燃えている。 こんな風に激高したプロイセンを目にしたのはどのくらいぶりだろうか … 同じ土俵にあがっては駄目だ … と、そこでさすがに欧州古参の国家であるフランスはまだ自身も怒りで頭に血はのぼっているものの、若干平静を取り戻した。 ...
「で?大事な話って?」 これはもうあちらも回りくどいことは望んでなさそうだし自分も望んでいないので、ちゃっちゃと済ませたほうが良さそうだ。
これで本当にお手上げだ。 あとは残っているメンバーを知りたければドイツに聞くしかないのだが…… フランスが自室で頭を抱えていると、携帯が鳴る。 発信元はプロイセン。
「…ロマって…ロマーノ?」 聞かれてスペインは、あっちゃぁ…という顔をした。
そんな予想のもと、フランスは上機嫌で会議終了時刻の 18 時を指折り数えて待った。 そして 18 時 …… まあ、片付けやなんやですぐには部屋を出られまい。 …5 分後 …… 何か仕事の話で呼び止められているのかも …… 10 分 …20 分 ……30 分 …...
その日はドイツでの 欧州会議の最終日。 フランスはデスクワークは好きではないのだが、この日の会議はとても楽しみにしていた。
イギリスは怖気づいて思わず身をひこうとするが、プロイセンは 「殺してもいいっ!」 と、それを追うように身を乗り出した。
その後、どのくらい泣いていただろうか …… もうこれだけ子供のように泣いたあとだと気恥ずかしくはあるものの、今更それ以上の恥も何もない気がしてきた。
プロイセンの申告通り、 10 分でついた小さな家。 車を駐車場に停めると、運転席から出たプロイセンは当たり前に助手席側に回ってきてドアをあけてくれる。
食事を摂ってくる … と言ったものの、食欲なんてわくわけがない。 むしろ飢えて死にたい気分だ。 おそらくショックで青くなっているであろう顔を誰にも見せたくなくて、とりあえず気持ちを落ち着けようと会議場から徒歩 2 分のホテルの部屋まで戻った。
「えっと…坊ちゃん誰?」 「はあ??」 フランスは頭に包帯をしてベッドの上で半身を起こして雑誌をめくっていた。 そして部屋に入ってきて 「お前、転んで怪我をしたって聞いたんだが … 」 と言葉をかけて、そのあと『ランチの約束どうする?』と続...
今回の主催国はドイツなので、美味しいビールの店にしようか …… そんな事を思いながら会議場へ。
久々の欧州会議。 当たり前だがヨーロッパの国々しか参加しない会議だ。 だからそこには仲良しの日本がいないので、以前はあまり好きではなかった。 栄光なる孤立などと言ってみたところで、国策としては良いと思うが、プライベートではひとりぼっちは寂しい。
ちらりと覗く座席。 いつもの指定席。 イギリスの隣のフランスの席は未だ空席。 今日は一日医務室らしい。
会議開始 5 分前 … モニターをつけるとディスプレイの向こうにイギリスの姿。 童顔で細くて少年のような外見なのに、少し野暮ったいくらいのかっちりしたスーツを着ているのは変わらない。
翌日 … スタッフルームで早朝から裏方の仕事をしていたプロイセンに、主催国なので早めに会議室入りしていた弟ドイツから電話が来た。
こ ・ の・ 贅沢者があぁぁーーー!!!! 叫びたい!声を限りに叫びたかったが、それを堪える代わりにプロイセンはドン!と乱暴に空のジョッキをテーブルに置いて言う。
「んで?何故今日はわざわざスペインを外して俺様だけ呼んでその話なんだよ?」 黙っていると泣きそうだ。 だから後ろを振り向いてビールのおかわりを注文しつつ、あえて本題からほんの少しだけずれた質問をしてみると、フランスからは 「だってあいつペドなんだもん」 ...