当たり前だがヨーロッパの国々しか参加しない会議だ。
だからそこには仲良しの日本がいないので、以前はあまり好きではなかった。
栄光なる孤立などと言ってみたところで、国策としては良いと思うが、プライベートではひとりぼっちは寂しい。
しかしここ十数年ばかりは様相が変わっている。
協商を結んだのはもう100年以上になるが、そのあたりから徐々に本気の殴り合いが減って関係が好転してきたフランスが、今では各週末くらいに自作の菓子を持って訪ねてくる仲になってきた。
そんな風だから、たいてい欧州会議の前に訪ねてきた時に
『今回の会議は○○だっけ?だったら美味しい店知ってるよ~』
などと約束をして、ランチも会議後も当たり前に連れ立って出かけるようになったので、一人で気まずい思いをすることがなくなった。
決して口にすることはしないが、元々海の向こうの隣国の事は好きだった。
なにしろ幼い頃に周りに居たのは、自分に矢をいかけてきたり呪いをかけようとする実兄達だけ。
そんな状況だったので、イギリスが美味しい菓子を持って訪ねてきてくれる少女のように綺麗な隣国に憧れを抱いたというのは当然のなりゆきだった。
隣国にしてみれば気が向いた時に気まぐれに訪ねてきていたのかもしれないが、幼いイングランドは毎日どころか常にといっていいくらい、海の向こうを気にしていた。
あの当時はほぼドーバー海峡の見える丘で過ごしていたと言っても過言ではない。
もしあのまま隣国が攻め入って来ていなければ、その幼く淡い初恋はとっくに相手に伝わって、それこそアイルランドではなくフランスとの連合王国になっていたかもしれないと思わないでもない。
しかし現実は残酷で、その後、信じていたところに攻め入ってこられたのもあって、一時占領されていた頃はフランスに連れて行かれたりもしたが、完全に裏切られた感で友好を結べるはずもなく、思い切り反抗してフランスをぶち倒して自由を再度手に入れてからは、やけくそのように7つの海を支配してしまったりしたのだが……
まあそんな過去はとにかくとして今は隣国とはなかなか友好的な関係を築いていて、今回も3日ほど前にイギリス宅に訪ねてきた隣国は、会議の日のランチと夕食の約束をして帰っていった。
こうして日々大きな喧嘩もしなくなって過ごしていると、フランスは愛の国というだけあって一緒にいて心地の良い奴だと思う。
昔も優しいには優しかったが、それでもあちらは大国でプライドが高かったのもあり、いちいち自慢と上から目線でカチンと来ることもなくはなかったのだが、昨今は長い歴史、数々の戦いの中で敗戦なども経験して年齢を重ねたせいか露骨なマウンティングもなく、同じようなことを言うのにも物言いが穏やかになった。
──イングランドはほんっとうに駄目だよねっ
…と勝ち誇ったように言っていた言葉も
──坊ちゃんは本当に仕方ない子だねぇ。まあそんなところが可愛いんだけど
などと困ったように笑って言われると、おそらくフランス的には同じような事を思って言っているのだとわかっていても、イギリスも苛立たずに受け入れられる。
孤独に慣れた心には、イギリス以外にはスタンダードであったのであろうフランスの優しげな言葉が心地よく響く。
会議中のランチと夕食の誘い…それが当たり前に交わされるようになったここ十数年。
それだけで会議が楽しみになった。
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