もうこれだけ子供のように泣いたあとだと気恥ずかしくはあるものの、今更それ以上の恥も何もない気がしてきた。
いつもは騒々しいだけではなく実は非常に論理的で、ごちゃごちゃと感情的なものが好きではなさそうな感じなのに、イギリスが感情のまままとまりなく話すのを、まるで泣いている子どもに対峙する親のように、時折、そうだよな、とか、それは悲しかったよなとか、同意の相槌をうちながら、頭を撫で続ける。
そうしてイギリスが話したいことを話し終わったタイミングで、いきなり
「なあ…俺様じゃ駄目か?」
と、イギリスの顔を覗き込みつつ言った。
──駄目…って??
泣きすぎてぼ~っとした頭ではあまり意味も考えられず、目をぱちくりしながら聞き返すと、プロイセンは綺麗な切れ長の赤い目で、イギリスの目を捉える。
元々整った顔立ちをしているとは思っていたが、こうして真剣で…少し気遣わし気な表情をしているとあまりに美形で、まるでおとぎ話に出てくる王子のようだ…と、バカみたいなことを思った。
聞き返したイギリスの言葉に、いつもは迷いなど全くないようなプロイセンの赤い瞳がかすかに揺れる。
ほんのわずかな間、考え込むように視線が下に向くと、意外に長い銀色のまつげが控えめな灯りの中でわずかに光った。
しかし逡巡していたのは本当に一瞬で、すぐまた何か決意したような視線がまっすぐイギリスに向けられる。
そして今度ははっきりとした口調でプロイセンは口にした。
「イギリスが好きだ…」
…えっ……と、聞き返す間もなく、一度口にしてしまった事で勢いがついたのか、プロイセンはさらに言葉を綴る。
「ずっと昔からイギリスが好きだった。
もちろん俺様は生まれたのが遅かったから、一緒に居た年月、想いを抱えてきた年月はフランスにはかなわない。
でも俺様ならイギリスを一人で泣かせたりしない。
戦いに明け暮れて手を血で汚し、謀略計略で国の礎を築いた時点で、もう神に誓うことさえ許されなくなったかもしんねえけど……俺様は俺様の心と命にかけて誓う。
絶対に大切にする。
誰より何より大事にする。
だから俺様じゃ駄目か?
俺様をイギリスを誰よりも愛して守って大切にして…誰よりイギリスの側にいる存在として見てもらえねえか?」
イギリスの手は泣きながら事情を話しているうちに血の気が失せて冷え切っていたが、プロイセンの温かい両手で包まれて熱を取り戻しつつあった。
そしてその言動で、今度は顔が熱くなる。
──頼む…俺様を選んでくれ……
プロイセンはイギリスの手を引き寄せると、そう言って自分の手越しに口づけを落とした。
それでもうイギリスは脳内パニック状態だ。
だって、ラテンの男たちと違って、プロイセンが甘い言葉を吐いているところなど見たことがない。
驚きすぎてそれを口にすると、
「告白は不変で唯一にして神聖なもんだ。
本当に好きなやつ以外にする気はねえ。
俺様が愛を口にする相手は生涯イギリスだけだ」
と、プロイセンは怖いほど真剣な顔で言う。
唯一…本当に不変なのか?
いつだって自分に好意を示す相手は、イギリスが気を許して心を預けてしまうと、言葉を翻してイギリスに剣を向けた。
フランスだって近年あれだけ足繁く通って、それこそ恋人とまではいかないまでも誰よりも親しい関係のようにふるまっておいて、イギリスのことだけをすっぽりと忘れたりしたのだ。
もう傷つくのは嫌だ……
まだ傷の癒えない心が泣き叫ぶ。
プロイセンの言葉は…イギリスのことが唯一大切だという言葉は、飢えた心が喉から手が出るくらい欲しているものだが、あまりに欲しすぎているからこそ、またそれを覆されるのが怖い。
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